鈴木健.txt/場外乱闘 番外編

スカパー!公認番組ガイド誌『月刊スカパー!』(ぴあ発行)のスポーツ(バトル)では、サムライTVにて解説を務める鈴木健.txt氏が毎月旬なゲスト選手を招き、インタビュー形式で連載中の「鈴木健.txt/場外乱闘」が掲載されています。現在発売中の2018年9月号には、第57回ゲストとして8・28後楽園ホールにて20周年記念大会をおこなうプロレスリングFREEDOMSの“クレイジーモンキー”葛西純選手が登場。誌面では惜しくも載せられなかった部分を含めて大公開!!

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※鈴木健.txt氏 twitter:@yaroutxt facebook:facebook.com/Kensuzukitxt

葛西 純x鈴木健.txt 場外乱闘 番外編

デスマッチ以外にないから
やめたら翌日、布団の中で
ミイラになっている

葛西 純(プロレスリングFREEDOMS)

©葛西純/FIGHTING TV サムライ/ カメラマン:蔦野裕

俺っちにあこがれた時点で
竹田が超えるのは無理

8月28日、後楽園ホールにて開催される葛西純プロデュース興行は自身のデビュー20周年記念大会としておこなわれます。20年のキャリアのほとんどがデスマッチファイターとしてというのも、なかなか例がないですよね。

葛西 なんか気づいたら自分が一番オッサンだからなあ、周りを見たら。もともと俺っちは5年ぐらいやったらやめるつもりでいたんだけど。

そうだったんですか。

葛西 親から「5年やって芽が出なかったら帰って来い」って言われていたんで。それが4倍もやっちまったわけだ。20年、よく続いたって思ってんだろ?

デスマッチだけになおさらそう思います。

葛西 俺っちに言わせれば、そんなもんを超えて「よく生きてたな」っていうのが実感だよ。ところどころケガはしてるけど、五体満足でいられているんだから。

毎日のように傷つき、血を流し、高いところから落ちれば火にも突っ込むということを続けてきたことを思えば、確かに「生きていることが奇跡!!」ですね。

葛西 デビューして1年半ぐらいでデスマッチを始めたから、ほぼデスマッチ一本って言っていいだろ。デスマッチがやりたくてプロレスラーになって、それを20年近く続けてきたら正直、やり尽くした感はあるよな。上の人間を追いかけていた時はガムシャラにできたけど、いざ追われる立場になるとあまり燃えるものがなくて。誰か俺っちのことを燃えさせてくれるやつはいねえのかよ。

今は相手云々ではなく、葛西純というブランドで受け入れられているところはありますよね。

葛西 竹田(誠志)なんかにしろ、FREEDOMSのベルト(KING of FREEDOM WORLD CHAMPIONSHIP)と大日本のベルト(BJW認定デスマッチヘビー級)を持って2冠王って言っているけど、そういうもんじゃないんだよな。もともと俺っちはベルトが欲しくてプロレスをやっているわけじゃねえし。心底「こいつには負けたくねえ」って思える存在に出てきてほしい。

負けたくないっていうのは、試合における勝ち負けだけの話ではないですよね。

葛西 そう。そんな単純なもんじゃなくて…なんていうかな、やっぱりインパクトだよな。今だったら竹田や(木髙)イサミ、宮本(裕向)とやって毎回勝てるかどうかは正直わかんない。でも、終わってみてお客さんに「やっぱり葛西が持っていったよなあ」って思わせる自信はあるから。そういうところで俺っちを脅かす人間は、まだいない。

竹田選手だけでなく、ビオレント・ジャック選手や正岡大介選手、吹本賢児選手らも支持され、FREEDOMSのデスマッチはクオリティーとハードルが上がっています。それ以前からデスマッチをやっている人間としてはどう映っていますか。

葛西 そうやってFREEDOMSが盛り上がるのはいいことだと思うけど、やっぱり葛西純を脅かす存在はいないって映るんだよな。その日、誰が一番印象に残ったかが確実に表れるのってわかるか? 興行が終わったあとの売店だよ。いっつも俺っちのところが一番行列できている。

なるほど。

葛西 それと竹田にしろ吹本にしろ正岡にしろ、どこかに“葛西純臭”が出ちまってんだよ。そういうのを払拭しない限りは超えられねえよ。

影響は受けているでしょうからね。特に竹田選手は高校時代、レスリング部のロッカーの扉へ血だるまになった葛西選手らしきプロレスラーの写真を貼って「俺はプロレスラーになって葛西さんとデスマッチをやるのが夢なんだ」と語っていたほど(レスリング部の2年後輩にあたるフジタ“Jr”ハヤトの証言)ですから。

葛西 そうなの? なんか酔った時にあいつが言ってたんだけど、俺っちがZERO-ONEをやめて伊東竜二と闘うために大日本へ戻ってきたのと同じ時期に、DDTをやめた佐々木貴が大日本に上がってデスマッチをやり始めて「伊東のベルトに挑戦させろ!」って言うもんだから、いっせいに観客から「せっかく葛西がZERO-ONEをやめて大日本に戻ってきたのに…俺たちは葛西vs伊東が見たいんだよ! おまえなんか顔じゃねえよ!!」って拒絶されたんだよ。その時、ブーイングを飛ばしていた中に竹田もいたっていう。

プロレスファンの竹田誠志さんは葛西vs伊東戦が見たかったんですね。

葛西 当時、高校生の竹田誠志君はその後、プロレスラーになって葛西vs伊東戦はセコンドについて見ていたんだよ。

見たいと言っていたのは高校時代で、じっさいに見たのはプロになってから。見られてよかったですね、竹田選手。その竹田選手と20周年記念大会で対戦するというのも大河ドラマです。

葛西 まあ…心技体ってよく言うだろ? そのうち技と体に関してはとっくに俺っちを超えていると思うんだよな。でも心に関してはまだまだ超えられていない…うん、一生超えさせないな。俺っちにあこがれた時点で、それは無理。そういうもんだ。清水アキラは研ナオコや村田英雄を超えられないだろ? コロッケも美川憲一を超えられない。それとおんなじだよ。

コロッケさんは美川さんを超えようと思っているんですかね。

葛西 俺っちが美川憲一であいつがコロッケだよ。

葛西さんから見て、自分を燃えさせる可能性を秘めている選手はいますか。

葛西 いない。

ビオレント・ジャックは?

葛西 うーん…ジャックも竹田と同じでトータル的に見て完ぺきに近いと思うけど、デスマッチファイターにしては洗練されすぎているんだよな。胡散臭さやキワモノ感? 俺っちはどっちかっていうと、そっち方面のデスマッチファイターだから。

以前の燃えられる相手といったら誰になるんですか。

葛西 (大日本のBJW認定デスマッチヘビー級王者として)絶対王者時代の佐々木貴がそれに近かったな。あとはシングルでやる前までの伊東竜二かな。まあ、このまま出てこないで結局は葛西純の一人勝ちで終わるのが理想だから。

生きている実感を得るために
死にそうなことをやっている

わかりました。ところで8・28後楽園でも発生すると思われるのですが、FREEDOMSのデスマッチは独特のグルーヴ感がありますよね。

葛西 別に名前は出したかねえけど、大仁田厚の半宗教的なものに似てきたって気はするな。葛西純を象徴として、それを崇めて盛り上がっているような空気は確かにやってて感じる。

自分がひとつのジャンルの象徴になれたというのはいいものでしょう。

葛西 まあ、シャドウWXにいじめられていた頃を思えば想像できないよな。でも、それも自分でなろうと思ってなったわけじゃないし、自分の好きなことを好き勝手にやっているうちにこうなっていたんで。

小中学生の頃って、むしろパッとしない少年だったんですよね。

葛西 いじられ役だったからなあ…そんな人間がこうなったんだから、やってきて正解だったって思えるよね。俺っちのデスマッチを見て「会社が嫌でいきたくなかったんですけど、明日から頑張れそうです」とか「学校でいじめられているけど、勇気が湧いてきました」とか、じっさいに売店で話してくれるファンがいるんだけど、そういうのを聞くと誰かの力になれてよかったって思えるし。20年間、体を張ってやってきた甲斐があったってもんだよな。こっちはグッズを売りたくてそれどころじゃねえんだけど、熱くなっちゃってっからいつまでも語ってんだよ。

それでなかなか列が進まない。

葛西 でもよ、それを無碍にすることはできねえだろ。俺っちにとっても、そういう話を聞くことで力になるし。最初は好きなことを自分のためにやっていたのが、続けるうちに他人のためにもなっているんだから、いいもんだよな。

それも20年ずっとデスマッチをやっているから熟成されていくんでしょうね。これほどのキャリアを重ねればスタイル的にもシフトチェンジする年代になってくるわけですが、葛西さんは少しも落ち着かない。

葛西 当たりめえじゃねえか、おめえよお。落ち着いたりなんかしたら葛西純じゃねえだろ。やめるその瞬間まで、俺っちはトップギアで突っ走るから。ギアチェンジして長く続けようと思ったら、その時がプロレスをやめる時。これまで何度か大きなケガをした時も、ギアチェンジしてまで続けようとは思わなかったし、体が動かなくなったらやめればいいっていう考えだったから。引退試合までがデスマッチっていうのは、俺っちの中では当たり前のことだよ。まあ、欲を言えば…俺っちの息子(長男・ハッピーボーイ君)が今14歳なんだけど、小学5年ぐらいから「プロレスラーになりたい」って抜かすようになったんだよ。最近は「新日本プロレスにいきたい」とかナメたことを言っているから、自分の引退興行の第1試合で息子がデビューするっていうのが夢だな。

素敵な夢じゃないですか。

葛西 デビュー戦は竹田と当ててボコボコにしてもらう。俺っちは姉しかいないんで、自分の中では竹田誠志は弟のようなものなんで、息子のデビュー戦の相手を務めてもらうのは竹田しかいない。

あまり素敵じゃなさそうです。

葛西 デスマッチをやるのか?って聞いたら「デスマッチはやりたくない」って言うんだよ。家に帰ってくると試合会場やファンには見せない姿を小さい頃から見てきてるからな。朝起きたらシーツが真っ赤っ赤だったりとか、風呂で悲鳴をあげながらシャワーを浴びたりとか。

風呂場から悲鳴が聞こえてくるというのも嫌な家ですね。

葛西 そういうのを見ているんでデスマッチはやりたくない、でも新日本には入りたいって…新日本をナメてやがんな。だから竹田にボッコボコにしてもらう。

小さい頃から父親のデスマッチを見てきていながら、それ以外のプロレスも好きなんですね。

葛西 海外が好きみたいで、WWE、NXT、PWG…女もガイジンが好きだって。

14歳で外国人女性が好き!

葛西 ザ・グレート・サスケみたいなもんだな。AJスタイルズが好きって言ってた。

だいぶ洗練されたタイプが理想なんですねえ。父親と真逆な…。

葛西 おい待てよ。俺っちは自分で洗練されているタイプだと思ってんのによ!

燃えさせてくれる相手がいない中で、息子さんの存在がいいモチベーションになっているんじゃないですか。

葛西 それは言えるよな。親父の背中を見て同じ職業につきたいって思ってくれたら、親父としてこんなに嬉しいことはない。

日本でデスマッチファイターの二世選手というのは、例がないんじゃないですか。

葛西 言われてみればそうかもしれない。まあ、息子のデビュー戦の日に親父は最後までおいしいところをかっさらって引退するんで。で、俺っちがリングからいなくなったら「葛西が引退したらデスマッチもつまんなくなったなあ…」って、みんなデスマッチを見なくなる。それが最高だな。

デスマッチが廃れるのを願う!

葛西 そりゃそうだろ、おめえよ。俺っちが体張って命懸けてやってきたのに、俺っちがやめた途端デスマッチの人気が上がっちまったら、そんな悔しいことねえだろ。だから俺がやめたらデスマッチはなくなればいい。

フツー、やめていく者はその道の発展を願うものですが。

葛西 俺っちがそんな奇麗事を言うとでも思ってんのかよ。日本の法律でデスマッチを禁止にしてくれ。そうすれば「かつて葛西純というすげえデスマッチファイターがいた」って、いつまでも伝説として語り継がれるようになるだろ。

そこまで人生の半分以上を注ぎ込むことができたのが、いわゆる通常のスタイルのプロレスではなく、デスマッチだったというのは…何なんでしょうね。

葛西 んー、ひとつ言えるのは今まで生きてきた中で一番他人に評価されたのがコレだったっていうのは大きいよな。「絵がうまいね」って言われるぐらいで、勉強はダメだったし運動神経もなかったし。

運動が苦手っていうのは意外ですね。

葛西 球技なんてからっきしだったし、団体競技が性に合わなかった。俺っちという人間に一番合っていたのがデスマッチだったっていうしかないよな。他人に評価される…あの歓声がなかったら、あんな痛いことはできないよ。だからノーピープルマッチじゃデスマッチはできない。途中でリングを降りちゃうと思う。「プロレスのリングは麻薬」っていうけど、まさにそれだよ。

竹田選手も、よく「気持ちいいなあ!」って言っていますね。

葛西 あれはただの性癖だろ。人に見られて痛い思いをすることで快感を覚えるっていう。俺っちのはちょっと違う。生きた実感…普段、生活している中で「俺って生きているなあ」って実感することなんてないよな? そんなの、おしっこメチャクチャ我慢してから放尿した時ぐらいだろ。だけど、デスマッチのリングにはそれがあるんだよ。

それは通常のスタイルでは味わえないものですか。

葛西 いや、味わえないわけではないけど、デスマッチだとより一層だよな。試合が終わると「おー、生きている! 神様、ありがとう」ってな。

生きている実感を得るために死にそうなことをやっているというのも、ある意味パラドックスですよね。人間、危険な目に遭ったらそれを回避するものですが、右手中指が皮一枚でつながっている状態を体験しても続けています。

葛西 登山家に通じるものがあるのかもしれない。あの人たちも「どうして山に登るんですか?」って聞かれると思うんだけど、きっとそこに生きている実感があるんだろうな。

これほど生きている実感を味わいまくってしまったら、もういいんじゃないかってなっても不思議ではありませんが。

葛西 いやいや、むしろそれがクセになっちまっているからやめられねえよ。

引退したら抜け殻のようになってしまうでしょうね。

葛西 急に老けるだろうな。引退試合を終えて布団に入って、翌朝なかなか起きてこないから嫁さんが布団をめくったら、ミイラになっているんじゃねえか。

『トレジャーハンター』みたいですね。

葛西 そうなったら本望だよ。家族は別として、俺っちはデスマッチ以外ないから。性欲もないし、若い女の子のケツを見てもなんとも思わないんで…自分でも哀しいですよ。

プロレスラーは引退すると第二の人生で頑張ると言いますが、葛西さんの場合は…。

葛西 俺っちに第二の人生なんてねえよ。だからリングへ上がっているうちにもっとデスマッチを世の中に広めたいよな。自分が好きでやっていることとはいえ、もっと稼ぎたいし有名になりたいし、いい家に住みたいしいい車に乗りたいし。だって、イチローだって中田英寿だって、好きな野球やサッカーやっててあんだけ金持ちになってるんだから。それをデスマッチでやるんだから不可能に近いかもしれないけど、男として生まれたからには、自分の城を持つぐらいまでにはなりたいってもんだ。