鈴木健.txt/場外乱闘 番外編 Vol.114

スカパー!公認番組ガイド誌『月刊スカパー!』(ぴあ株式会社発行)では、毎月旬なゲスト選手が語る「鈴木健.txtの場外乱闘」が連載されています。現在発売中の2026年8月号では、第145回(本誌ナンバリング)ゲストとして全日本プロレス・安齊勇馬選手が登場。誌面では惜しくも載せられなかった部分を含めて大公開!!

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安齊勇馬(全日本プロレス)x鈴木健.txt 場外乱闘 番外編

今のこの波は一過性なんですよ。
その中で何かしらつかまないと、
過去の人みたいになっちゃう

安齊勇馬(全日本プロレス)

全日本は本来あるべき
人気が追いついてきた

一般メディアの取材も増えて、喋る機会が多くなったと思われます。話すのはもともと長けていたのですか。

安齊 得意な方だとは思います。こうした取材にしても、プロレスの場合はリング上のマイクや会見と喋れないとどうにもならない場面が多々あるので、そこは努力によってできてきた感じです。配信をやったり、日常から喋ることを考えたりはしてきました。小さい頃からよく喋る子ではあったんですけど、大人になるにつれて人見知りになったんですよ。だから、プロレスに関わらないと喋れない。プライベートでは、はじめましての方とは今でもまったく喋れていないです。内の世界、隔離された世界で生きています。

メディアでとりあげられることが多くなり、そのつど初対面の方々と顔を合わせるわけじゃないですか。人見知りしまくっているんですか。

安齊 いや、それでもプロレスと同じように仕事としてのスイッチが入ってしまえばわりと喋れます。だから、そこにストレスはなくやれていますね。

今回、取材させていただく中でまずお聞きしたかったのが、先のチャンピオン・カーニバル開幕戦の潮﨑豪戦についてだったんです。あの試合は公式戦の一つとしておこなわれながらSNS上でも「ベストバウトだ!」という声があがりました。リーグ戦はとかく優勝戦ばかりがクローズアップされがちですが、開幕戦の時点でそういう声があがるほどに評価されたのは、安齊選手の中でも大きかったのではと思うんです。

安齊 あの試合…まず潮﨑豪とのシングルマッチというのが、デビューして1年いかないぐらいの時のN-1 VICTORY(プロレスリング・ノアのシングルリーグ戦)で1度闘って以来で(2023年8月9日、後楽園)、お互いがその時と一緒ではないという思いがあったと思うんです。僕自身、成長していましたし、そのすぐあとにPrime Videoさんの『バチェロレッテ・ジャパン』シーズン4へ参加することが発表されるのがわかっていたので、生半可な試合をしてから出ますなんてなったら何を言われるかわかったものじゃないという気持ちも少しはあったんですね。なので、やっぱりプロレスラーならすべてプロレスで黙らせてやろうと思って、内容にこだわるというか、あの会場を盛りあげてやるっていう気持ちと、全日本プロレスTVやサムライTVさんの中継で見てくれた人たちも納得させたかったし。あとは、優勝予想で自分が1位にしていただいたんで、そういったファンの期待にも応えようという思いが全部詰まった結果だったんだと思います。

いつものカーニバル開幕戦とはちょっと違うシチュエーションだったんですね。

安齊 今までも開幕戦から持ち得る力を全部出してはいましたけど、より一層背負うものがありましたね。

あの日の後楽園の盛りあがりは異常なほどでした。あれが起爆剤となってチャンピオン・カーニバルも盛りあがり、最終戦の大田区(EBARA WAVE アリーナ おおた)につながり、そして6・18後楽園の前売り完売まで伝播しました。この3ヵ月間における全日本の加速度は、安齊vs潮﨑戦によって一気に上がった気がします。

安齊 でも、試合中はあまりわからなかったんですよね。2、3日経ってファンの方々の声を聞いて、いい試合だったんだなと思ったぐらいで。終わった瞬間は、やっぱり負けた悔しさが一番ありましたし、自分でベストバウトかどうかっていうのは実感としてはなくて。ただ、三冠チャンピオンでもない自分が会社からあの日のメインイベントを任せてもらえたのは大きいことでした。その期待に応えようと思ってやった結果、評価していただけたのであれば嬉しいです。

これまでの試合と比べての手応えや、充実感はどうだったんでしょう。

安齊 確かに、一つの試合であそこまで評価されるというのはこれまでなかったんですよね。ずっと見ていていただいてきた中でよくなっているとか、この試合はよかったなというのはあったんですけど、あそこまで全員を巻き込んだというのは初めてでしょうね。

あの試合の特筆すべき点は、ベストバウトにありがちなこの試合用の新技というのがなかったことです。つまり、安齊選手も潮﨑選手も普段から使っている技のみであそこまでの熱狂空間を作りあげたことでした。

安齊 そうでしたね。過去に1度、シングルマッチでやっているからという期待値みたいなものは多少あったと思うんです。リベンジマッチ的な見方として。自分が今までやってきた中から変えるとしたら、けっこうタイミング的にチャンピオン・カーニバルっていうのはアリじゃないですか、それに向けて技を増やすということは。実際、僕はコスチュームを変えたんですけど、技に関しては一切それをしないでもああいう評価を得られたことで、自分のやってきたことが間違っていなかったんだと思えました。同時に、たとえいい試合ができたとしても勝利にはつながっていないからこそ、僕にとって足りないものも見えてくるから、それもプラスには持っていけると思うんです。

優勝戦ではなく、リーグ戦の公式戦がその年のベストバウト(プロレス大賞年間最高試合賞)に選ばれたら画期的です。

安齊 僕はベストバウトというものにけっこうこだわりがあるんです。2024年の殊勲賞に選んでいただいたんですけど、ベストバウトの方でも僕と宮原(健斗)さんの三冠戦が2位だったんです。僕が三冠ヘビー級チャンピオンになった時、安齊勇馬は過去最弱のチャンピオンみたいに言われていたので試合で黙らそう、全員の手の平を返させてやろうという気持ちがずっとあって。それで殊勲賞よりベストバウト賞の方がほしかったっていう思いだったんです。ちゃんと周りから認められたいっていう思いは今も持ち続けている。だから今年も狙うのはベストバウトです。プロレス以外の世界で活動できているとしても、評価されるのはやっぱりプロレスでありたい。潮﨑戦に限らず、これからもベストバウトに選んでもらえるような試合を生み出したいです。

前売りで完売となった6・18後楽園は、いい風景に映ったのでは。

安齊 はい。立ち見も完売して、久しぶりに完全札止めと聞いた時は嬉しかったですし、それは確実に僕を目当てに来てくださっている方が多くなっているのもわかっていたので。

あの前後で一般誌の表紙起用などが公開されたので、安齊勇馬目当てのお客さんは多かったです。

安齊 それで少しでも近くから僕のカッコよさを見てもらおうと思って、南側から入場したんです。

あれはご自身のアイデアだったんですね。

安齊 南側客席入り口に立った瞬間、パッと見たらみんな花道奥のゲートにカメラを構えていたのが、いっせいに振り向いたんですよ。本当、悲鳴に近いような声でしたよね、あれ。それがすごく気持ちよかったですね。

風景の動く一瞬がわかった。

安齊 僕自身だけでなく、全日本プロレスにとってもこの数ヵ月でいい形に進んでいると思います。でもそれは、今までの積み重ねによるものですよね。一つの起爆剤としては『バチェロレッテ・ジャパン』シーズン4もあるとは思いますけど、母体である全日本プロレスの中身そのものが見てもつまんない、どうしようもない形だったら一回だけ見てプロレスは面白くないなって離れていく人も多かったはずです。僕からすると、この流れによって全日本プロレスの人気が高まったというよりも、本来あるべき人気が追いついてきたっていう思いなんです。僕が入門して、セコンドをやりながら先輩たちの試合を見て、クッソおもしれー!と思って、セコンドにつかなくなってからも帰ってから全日本プロレスTVを見て、すげえ三冠戦やっているなとか、すごい優勝戦やっているなとか、第1試合からマジで面白いじゃん!ってずっと思ってきたことが、やっと世間に届いた。

自分の団体の試合をそこまで熱心に見ていたんですね。

安齊 ええ。あくまでも僕は一つのきっかけであって、上の人たちが守り続けてきたものがあったからこそだと思っています。

バチェロレッテで見て、初めてプロレスに来ましたという声はけっこうあるものなんですか。

安齊 それこそ1ヵ月前や6月前半はそういう連絡しか来ないというか。Instagramでいうと、発表されてから今日までで7万人ぐらいフォロワー数が増えたんです。その中で、そういう声しか送られてこないぐらいで。

7万人も増えると、別世界になりますよね。

安齊 送られてくるメッセージの分母が違ってきます。それが「プロレスに興味を持ちました」「いつかいってみたいです」ではなく「もうチケットを取りました」っていうメッセージなんですよ。タイミング的に僕がケガをして本来の動きができなかったので葛藤はあったんですけど、それでも見に来てくれたお客さんは、僕もカッコよかったけどほかの選手の試合も凄かったと、僕を経由してほかの選手の応援を始めるぐらいで。いろんな選手が輝けたという意味でも別世界になりましたよね。

物事が変わるのは一瞬です。

安齊 最初は「うわっ!?」ってなりましたけど、本当にプロレス界で一番自分がカッコいいと思っているし、今ならプロレスでも輝けるのに、なぜこんなにも世間から見られないんだというのがずっとあって、それがやっとこのきっかけを得て外に届くようになったと思って、今はこれが当たり前というぐらいの気持ちでいますね。

自分自身がこういう露出の仕方で知名度やポジションが上がっていくことは想定していたんですか。

安齊 想定というよりは、これが希望というのはありました。全日本の試合はもちろん面白いですし、カッコいい人もたくさんいるけど、外に向けて発信できているかと言われたら足りなかった。たとえば宮原健斗という三冠王者は文句なしで満場一致で最高じゃないですか。喋りの面でもプロレスを話したら盛りあげられますし。ただ、まったくプロレスと関係ないところへいってそれが通用するかといったら、そうではないと思うんです。あの人はプロレスに関わっているからこそ輝ける人で、それに対し斉藤ブラザーズなら『TAXIめし リターンズ』や地元に密着したテレビで人気を得て、さらに双子で極悪ヒールでデカくて力士出身のプロレスラーというたくさんの要素がある中で、タレント性が支持されている。僕も斉藤ブラザーズ寄りというか、外に発信できる能力が絶対にあることはデビュー直後の時点で思っていました。

それは何かしらの根拠に基づいた確信だったんですか。

安齊 根拠のようなものはなかったですけど、世間や周りの反応、ファンの反応を見てもプロレスを見て安齊選手が好きになりましたという人はもちろんですけど、InstagramやTikTokを見て「顔を見て好きになりました」から、プロレス会場に来ましたという人もたくさんいらっしゃったので、それだったらこの顔さえ、安齊勇馬という人間さえ知ってもらえれば絶対好きにさせるし、プロレスに興味を持たせられるなと思えたんです。

早い段階でそういうリアクションがあったんですね。

安齊 そうでした。だから、こうなるきっかけを本当にずっと探してきたという感じですね。初めからそういうポジションを担うんだっていうのが自分の中にあったし、そこで自分を信じられないような人間だったら、プロレスラーとしても大したことない人間なんですよ。僕は、プロレスラーって死ぬまでカッコつけるべきだと思っていて、リング上でもリング外でも絶対に通用する、トップを獲れるという思い込みで自分に暗示をかければ、胸を張っていろんなことを話せますし行動できると思っているので、それをデビューしてからずっと続けている感じですね。

新人時代は、それこそついていくのでやっとという段階じゃないですか。プロレスラーとしての自分自身を形成していく最初の段階でそういった意識を持てたというのは驚きです。

安齊 そこは自分の場合、諏訪魔選手のスカウトで入って日本武道館でデビューしてという、普通の人が通る道ではないところを歩いているのはデビュー前から思っていたので、それだったらより厳しいイバラの道にいって、背負えるものは全部背負って、それを当たり前にしちゃえばいいという考え方でした。

ハードルが高い人生をデフォルトにしてしまうと。

安齊 はい、それが僕のプロレスラー人生だと思っています。実は、この世界に入るまではまったくそういう人間じゃなかったんです。大学のレスリング部でも弱い相手と闘いたかったですし、ハードルが低いほどいいと思っていたぐらいで。それがプロレスラーになって、性格から何から一新させられました。

キャリア4年目の「全日本の
象徴になりたい」という意識

プロレス界と世間をつなぐ立場になって、心がけていることはありますか。

安齊 僕がよく言っているカッコいいっていうのは、顔だけじゃなく人間性も生き方も全部踏まえてのものなので、発信する時は嘘がないよう、より素の安齊勇馬を見せるのは心がけています。顔はもちろんカッコよく映るので中身として、人で興味を持ってもらえるように。

人間性を包み隠さず晒していこうと。

安齊 結局、いいように見られるよう作ったところで、よく先輩に言われるんですけどリング上は嘘がつけない、すべてが出ると。絶対にバレてガッカリされるのがオチなので、知ってもらう段階から何も隠さず「これが俺だよ。どう?」っていう形で見せる。それはむしろ、プロレスと離れるほどに気をつけていますね。

それって、自分自身にちゃんと自信がないとできないことですよね。

安齊 そうです。まあ、何度も言っていますが、一番カッコいい男なんで。自信って顔に出ますし、発言や行動に出ると思うので、俺が一番カッコいいって言えばそういう顔、発言、行動になるから、あえてちゃんと言葉にするようにしています。

それは大事だと思います。

安齊 僕の場合は始めた時点で0から100ではなかったというか、無名の練習生がいきなり皆さんの前に立つというよりも、ある程度期待感が膨らんだ上でのデビュー戦だったのでその準備期間がありましたし、あとはこれって全日本プロレスのいいところだと思うんですけど、先輩たちがみんなちゃんとプロレスラーなんですよ。プロレスラーだったらダサいところを見せるな、プロレスラーはこうあるべきだというのをちゃんと示した上で教えてくれるんで、それが素直に入ってきた。まあ、最初のうちはビビる場面も緊張する場面もあったんですけど、その2つが今の自分の考えになる上で大きかったと思います。

全日本プロレスは歴史と伝統をレガシーとする団体ですが、安齊選手にとってそれは別の時代のものに感じますか、それとも受け継いでいるという自覚があるのか。

安齊 やはり全日本プロレスっていうとジャイアント馬場さん、ジャンボ鶴田さんといった方々が引き合いに出され比べられることがあるんですけど、今までの時代に安齊勇馬はいなくてこれから僕のいる全日本プロレスになっていく中で、過去は関係してこないですよね。仮に今の時代、よーいドン!でスタートしても僕は負けるつもりがないですし、そういう方々がいたから今があるというのはもちろんなんですけど、それを重荷としては感じていないです。

三冠ヘビー級のベルトを獲った時もそうだったんですか。

安齊 そうでしたね。多少、今まで凄い人たちが巻いてきたベルトなので不甲斐ない試合ができないというのはありましたけど、それ以前にあの時は必死だったんで。とにかくベルトが似合う男にならなくちゃいけないという意識がずっとあって、そこはちゃんとプレッシャーに感じたというか、ベルトって重いなって思いました。

団体の歴史というよりも、三冠そのものの重さの方が大きかったと。

安齊 それと、ファンから向けられるものの大きさ、高さ。その時だけですね、期待やハードルが高いと一瞬、下を向きかけたのは。

安齊勇馬であってもあのベルトを持つと、そうなってしまった。

安齊 獲って最初のうちはそうでした。でもすぐに切り替えて…期間がよかったというか(2024年)3月30日の大田区で獲って、翌月からすぐチャンピオン・カーニバルが始まって、三冠チャンピオンとして開幕戦のメインイベントが斉藤ジュンだったので、そこから「じゃあ、試合で黙らせよう」ができた。あの時ばかりはカッコ悪くてもいいからガムシャラに食らいつくぞってなったので、自分自身はあまりチャンピオンとしての感覚がなかったのが正直なところだったんです。

カッコよさを自認しながらカッコ悪くてもいいと。

安齊 初防衛戦の相手・宮原健斗をはじめとして三冠を巻いたことがある人、巻いておかしくない人たちとの防衛戦が続いて、そういう人たちの過去を超える意味ではチャレンジャーの感覚でした。ベルトも獲った大田区で一瞬だけ腰に巻いたんですけど、それ以外は巻くことはなくて、全員が俺のことを認めたら堂々と胸を張って巻いてやろうと思って防衛戦を続けました。結果、青柳優馬に負けてしまったから巻けずじまいだったので、それによってもう一度、三冠ヘビー級チャンピオンになってやるべきことは今も持続している。それが、僕がまた獲る理由になっています。

一度持って大変さがわかっていても、もう一度獲ろうと思える。

安齊 今思えばあの時は未熟だったし、今の安齊勇馬だったら堂々とベルトを巻いて、堂々と全日本プロレスの象徴としてプロレスをさらに広め、全日本プロレスの素晴らしさをより皆さんにわかってもらえると思うので、本当…手にしたいですよね。

キャリア1年半で最高峰に到達したわけで、それほど早くに目標を達成したあとのモチベーションの持っていき方はどうしたのかというのは、ずっと思っていたんです。

安齊 そこは立場上一番上に立っただけで、それでもなお宮原健斗が全日本プロレスの顔で、青柳優馬にはシングルマッチでまだ一回も勝っていないですし、潮﨑豪からも獲ったことがないように、超えるべきものがまだまだあるというところでした。僕は、あの一瞬だけトップにいけただけであって、今が完全に安齊勇馬の時代かといったらそうじゃない。これほど僕が外に発信していても、じゃあ今の全日本の一番の柱、象徴は誰ですか?っていったら宮原健斗って答える人が多数だと思うんですよ。僕が事実上トップに立ったわけではないのだから、そこがゴールだとはまったく思えなかった。チャンピオン・カーニバル、王道トーナメント、世界最強タッグ決定リーグ戦、どれも一度も優勝していない。僕はそれを全部獲りたいと思っている。知名度が上がったからこそやりたいこと、できることが増えたと思っているので、むしろここからぐらいのつもりですよね。

全日本プロレスの象徴になりたいと。

安齊 僕が引退とか死んだあとに、あの時代はやっぱり安齊勇馬が築きあげたよなって言われるようになりたいので。そうなるには、これはもうずっと続けなくちゃいけないことだから、やることはたくさんあります。

象徴というのはベルトを巻くとか、何かに優勝するとかの実績だけではそうなれないのが難しいところです。それこそキャリアも必要になってくるでしょうし。

安齊 タイトル以外でも僕は今、こういったリング外の仕事がたくさん増えているので、それきっかけで全日本プロレスを見てくれる人がさらに増えて、都内だけでなく地方にいっても満員御礼が続いていけば、ここまでなったのは安齊勇馬がきっかけだったとなって僕の存在感が自然に大きくなってくると思っていて。そうなった時には、リング上でまとう雰囲気の見られ方や発言も変わってくるでしょう。言うなれば、立場が勝手についてくると思っているんです。だから、象徴となるための風格を持とうと思っています。

二十代で風格をまとうと。

安齊 顔になるとか象徴っていうのは、それも必要じゃないですか。だから、それをどのタイミングで自分が意識するかです。

たとえば宮原健斗選手は宮原健斗の風格を持っているわけですが、安齊選手はもっと弾けることが許される年齢であり、それを求めるファンもいると思われます。若々しく弾けた方がいいのか、どっしりとした方がいいのかのサジ加減が難しいのでは?

安齊 今の時点の僕は、リング上に関してはまだ風格はないと思うんですけど、持てると思っているし、持ちたい。風格って、出す出さないよりも認められるかどうかじゃないですか。それは僕だったらおのずとついてくると思っていますし、一方でリング外では風格があると邪魔な場面もあると思うので、そこは頭よく使い分けながらというのがあるんですけど、リング上が一番なんで。まずは僕が入場した瞬間、空気が変わるようにしたいです。

ああ、それは一つの要素ですね。

安齊 5・17大田区(チャンピオン・カーニバル最終戦)の入場も、僕をきっかけに見に来てくれた方々が多かったので姿を現した瞬間の受ける視線や浴びる声がそれまでと違うなという感覚があったんです。その感触によって、これを続けていけばより物事が変わって、僕自身も変わっていけるんじゃないかと思いました。

宮原選手のような完パケなまでにキッチリとした入場シーンをクリエイトしようとは思っていますか。

安齊 あれは本当にプロの入場シーンですよね。今の段階でも僕自身、多少考えていることがあるというか、ゲートに出てからリング上、名前を呼ばれてコーナーがあって、キャンバスへ降りるまでは決まった行動をずっとしています。なるべく360度、全員が僕の顔を見られるようには心がけています。

入場時は、必ずスカジャンを着ていますが、あれは何かこだわりがあるんですか。

安齊 僕、漫画が大好きで『クローズ』に出てくる坊屋春道がスカジャンを着ているじゃないですか。それを読んでいる頃から「俺はプロレスラーになったら絶対にスカジャンだ」って決めていたんです。

10年、20年選手になってもガウンに変えるつもりはない?

安齊 うーん、ロングガウンが似合わないと思うんですよね。

これほど売れたら、コスチュームももっと豪華にできるだろうにと思うんです。

安齊 あっ、でも1着目より2着目の方が刺しゅうの量が1.5倍になっています。実は相当かかっていまして、そこはこだわれるようになりました。

あと宮原選手の入場は、あのテーマ曲のグルーヴが一体感を生み出しているところもあります。

安齊 そうなんですよね。今の入場曲も気に入っているんですけど、やるなら早いうちに動いた方がいいんで…僕は全部を背負って、全部に関して考えてはいるんですけど、言うてもまだ4年目なんで、可能性としては無限であるとともに、腐るのも一瞬だと思っていて。どうやったらよく伝わるかは、常に向き合っているテーマなんです。

外のいいところに惹かれて
出てしまうのはカッコ悪い

この数ヵ月間で来た波は、もう逃せないですよね。

安齊 そうなんです。これは周りからも言われることだし、自分が一番わかっているんですけど、今のこの波は一過性なんですよ。その一過性の中で、絶対に何かしら一つでもつかまないと、本当に「一瞬だったね」で終わっちゃって、過去の人みたいになっちゃうんです。そうなったらカッコ悪く見えちゃうと思うので、勝負は今年中だと思っています(取材後、8・29大田区で宮原健斗の三冠王座に挑戦することをアピールする)。今年中に何かしらリング上とリング外でいい結果を残さないと、4年のキャリアでありながら過去の人になっちゃう可能性がある。

順調に見えて、実は追い込まれている。移り気なのが世間であり、それと向き合っている安齊選手だけに真実味があります。

安齊 本当、ほかに大きなプロレスの話題が出たら人の目はそっちにいくと思いますし。なので今は一切停まっていられないです。

プロレス外の世界に踏み込んだことでの新たな価値観の発見や、プロレス界との違いを感じたことは何かありましたか。

安齊 一つは、プロレスの中でカッコいいと思っていた自分が、外に出ても通用するという確信に変わったことと、インタビューなどで言葉にすることによって改めて自分の気持ちをちゃんと確認できるのも大きいです。撮影の仕事に関してもプロの人たちが、こういうポーズをとったらこう見せられるよって言ってくださる。それらのすべてをプロレスに生かせている。それこそ入場一つをとってもこうした方がよりカッコいい俺が伝わるなというように考えられるようになりましたし。どんなに僕が外に外にいったとしても、戻るべき場所はリングの上なので、全部がプロレスにつながっていないと意味がなくなっちゃうので。

プロレス業界と世間とのギャップを感じたことは?

安齊 僕は大学も出て、全日本プロレスではわりと常識がある方だと思っていたんですよ。

はいはい。

安齊 ところが外に出ると全然そんなことなくて…知ってましたか? 世間から見ると、骨折すると病院にいくらしいですよ。

……そうなんですか?

安齊 ええ。プロレスラーは欠場する気がなかったら病院にいかなくてもいいじゃないですか。すごく痛くて、試合できないようだったら結果的に休むだけで別に診断とかいらない。でも、世間では痛い、風邪ひいたかもしれないという時点でちゃんと病院にいくんですよね。

それをこの年齢で知ったと。世間に出てよかったですね。安齊選手の場合、卒業して最初の就職先がプロレス業界でしたからね。

安齊 デビューする時に先輩から、プロレス界は異常であれば異常なほどいい、頭がおかしければおかしいほどいいプロレスができるっていう教え方をされて。

誰がそんなことを教えたんですか。

安齊 極端に言うとですよ! 要は日常に染まるのはよくない、非日常を見せろという教えだったんですけど、こうして社会を知ってしまったことで日常がプロレスに出てしまうのではと多少思ったりもしています。

プロレス内での感覚だけでは当然、そうした仕事はやれないでしょうから、両立できているのも一つの才覚です。周りには露出できていいなと思う人もたくさんいるでしょうけど、やるとなったら我々の知らないところで大変なことが多々あるのではと思っています。

安齊 僕はより売れるというか、上にいくためにいろんなことを考えて行動しているつもりなので、うらやましいと思っている人たちはまだ何も行動していないように感じます。これは完全に妬まれているぞと思うこともあるし、自分でもこれが逆だったら妬むよなあとも思います。でも、それに見合うだけの努力をしたのかっていったら、もっとできることはあるでしょってなるし、僕が世に出るのは当然だと思っています。

それ相応のことを積み重ねてきたと。

安齊 はい。それだけに僕は、このチャンスは絶対に逃せないんです。これほど徐々にではなく一気に来て、今までの全日本プロレスの中にはなかった状況にあるわけじゃないですか。キャリア的に上だったり、年齢的に近かったりする選手もたくさんいらっしゃるので、面白くは思われていないというのは勝手に感じています。

本田竜輝選手も?

安齊 本田竜輝はたぶん、ニコニコしていると思います。

会社のために、業界のためにやっていることなのに妬まれるのも理不尽ではあります。

安齊 ハハハハハハッ、そうですよね。

でも、安齊選手はそうやって笑っていられる。

安齊 うん、全部僕が通らなくちゃいけない道なので。それはもう、けっこう前から受け入れているので、これがいい意味で日常になっちゃいました。

そういう高いハードルの人生を、まだまだこれから10年、20年と続けていくつもりでいると。

安齊 それが安齊勇馬なんだなと思っています。ちゃんとわかっています、自分が。

安齊選手は全日本に入ったのも諏訪魔選手のスカウトだったからで、プロレスラーになれるなら団体は問わなかったと聞いています。そんな自分が全日愛を持つようになったのは、どれぐらいの段階だったんでしょうか。

安齊 (少し考えてから)2022年1月2日、後楽園ホールのリング上で入団の挨拶をさせていただいたんですけど、元オリンピック選手とかだったらすげーっ!ってなるところ僕はただの大学生で、ちょっとレスリングでいい結果を出しましたぐらいの人間だったわけです。でも、そんなやつのマイクを聞いただけで「入団おめでとう!」みたいな感じでファンの皆さんに受け入れていただいて、その後も先輩の方々に、きっと面白くないと思いながらすごく厳しいながらも、本当にやさしく丁寧にプロレスを教えていただけた。その時点で全日本プロレスに来てよかったとは思えていました。あとは、もともと負けず嫌いなので他団体のメジャーどころの話を聞いていると負けていられないっていうのがあって。明確にこの日からっていうのはないと思うんですけど、そういう情報を耳にしたり目にしたりするうちに団体のためにという意識が芽生えてきたのだと思います。今のところ、自分のカッコよさのためにもほかに移るとかは考えられないので、全日本プロレスとして上にいくのが楽しいと思えているのも団体愛になるんですかね。先輩方もスタッフの人たちがみんないい人で、お客さんも温かいのが全日本プロレスなので、この人たちと一緒に今より上にいくことが僕の願いなんで。他団体に出ると感じるのは、全日本プロレスのファンで自分は得しているなって。一緒に闘ってくれて、その上でプロレスを楽しんでくれている。

ほかの団体がうらやましく感じる時はないんですか。

安齊 それはあります。正直、僕も東京ドームへ出たいですし、毎月巡業で47都道府県を回りたいですから。でも、そこだけを考えてそちらに移籍するのは簡単かもしれないけど、僕としてはカッコ悪い。

「カッコよさのためにほかに移ることは考えられない」とはそこを指して言ったんですね。

安齊 はい。カッコよさを追求している自分が、カッコ悪いと思うことはできない。今の価値観だと、外のいいところに惹かれて出てしまうのはカッコ悪い。4年目って人生でいったら反抗期のようなものですから、これからいろんなことを経験していく中でもしかすると、たとえば海外のようにもっと自分を試したいと思うようになるかもしれない。ただ、現状は全日本プロレスで大きくなって、有名になって稼げばいいじゃんって思えているので。

まだ大きくなっていなくて、のびしろがあるからこそ持てるやり甲斐ってありますからね。

安齊 大企業が親会社で、所属選手がいっぱいいてという環境だったら、けっこうがんじがらめになっちゃうんじゃないかって思うんですよね。プロレスラーは自由じゃないと自分の考えた通りにカッコいい道を拓いてそういう発言ができないとなると、全日本プロレスがこのまま大きく、認知されていくのが一番ありがたい。何よりも、僕は人見知りですから、知らない人しかいないところにいくのは…。けっこう、人見知りであることが役に立っていて、青柳優馬さんに教わっていた時、おっかなかったんですけど人見知りだからほかの先輩方に相談できなかったんです。それであと一日だけ頑張ろうとなって、その繰り返しで続けることができた。あそこで相談できる先輩がいたら、心が折れていたかもしれないんです。

そうだったんですね。今の発言、全日本のファンが一番聞きたかったことだと思われます。

安齊 僕は現実を見るタイプで、全日本プロレスとして東京ドームにいくとすれば、それはもうちゃんと一歩一歩積み重ねていくことだと思っているんです。今回、後楽園ホールが完売ということでやっと一歩踏み出せたわけで、そうなると次は毎回完売という目指すべきものができて、そのあとには大田区完売と続いていく。その上には大晦日の代々木(国立代々木競技場第二体育館)があって、その先には僕がデビューした日本武道館や両国国技館が見えてくる。そうした階段を一段も飛び越えることなく、一つひとつ踏んでいけば階段の先には東京ドームが待っている。その道筋が見えるから僕はたどり着けると思っているので、その中で僕ができることとして自分を全部捧げ、安齊勇馬という商品をフルに活用してもらえたらと思っています。

完全に身を捧げていますね。

安齊 4年目の人間がそこまでやろうとしている。それほどの魅力が全日本プロレスにはあるんでしょうね。だからやっている自分は今を楽しめています。ましてや今は新しい仕事も入ってきて経験できなかったことができているので。もちろん大変だし、疲れる時もあるんですけど、全部楽しめています。

8月29日には後楽園の一つ上のハードルである大田区があります。

安齊 前回は3000人を超えましたけど、入場した時のテンションがやっぱり上がったんですよ。それが満員になったら、どんな感覚になるんだろうと思うと、それだけでワクワクしてきます。全日本プロレスのいい部分の一つとして、ウチって見に来て嫌な気分になることってないと思うんです。誰が勝って、その日の興行を誰が締めてもよかったって思えるし、モヤモヤしたまま帰ることになるって、まずないんで。8月は後楽園、大田区とあるんで、僕に会いに来てください(小指を立てるポーズ)。