鈴木健.txt/場外乱闘 番外編

スカパー!公認番組ガイド誌『月刊スカパー!』(ぴあ発行)のスポーツ(バトル)では、サムライTVにて解説を務める鈴木健.txt氏が毎月旬なゲスト選手を招き、インタビュー形式で連載中の「鈴木健.txt/場外乱闘」が掲載されています。現在発売中の2018年7月号には、第55回ゲストとして「POWERHALL」をプロデュースする長州力選手が登場。誌面では惜しくも載せられなかった部分を含めて大公開!!

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長州力(RIKI PRO)x鈴木健.txt 場外乱闘 番外編

久しぶりに大きな試合の前は
サイパンへいったような意識を持っている

長州力(RIKI PRO)

©RIKI PRO/FIGHTING TV サムライ/カメラマン:言美歩

不安感はどういう試合でも
僕は常に持っていますよ

―1月14日にプロデュース興行第1弾を開催し、超満員の盛況となりました。長州さんご自身、手応えはいかがでしたか。

長州 まあ、1回目っていうのは何があったって反響がそれなりにあるもので。よかったですけど2回、3回となるとだんだん厳しくなっていくし。それはもうずーっとやってきた中でわかっている。でも「POWERHALL」だったらこういう内容のものも打ち出していけるのかなっていう…まあ、前回ちょっとオチっぽいものがあったんで(メインに出場した伊橋剛太のファイトぶりに長州が苦言を呈す)。そんなところですね。前回終わったあと、まだ第2弾をどうするかというのは頭になかったですけど、いろいろ動き始めて前回ほどのインパクトっていうか、そういうのはどうなのかなと。反対にこれが1回目だったらよかったかなというのもあるし。でも、年間何試合かのPOWERHALLだからこれはこれでヨシとして、また今年あるのかないのか先のことだけど。

―この時代に後楽園ホールをあれほど埋められるというのは評価されるべきこと…。

長州 そんなことはないでしょ。だとしたら寂しいですよ。ただ、POWRHALLは年に数回ですから時間もあるからジックリ考えてできるし。興行で張り合っているわけではまったくないし、まだ2回目じゃ言えないんだけどPOWERHALLはお客が驚くようなカードができればいいなと。それぐらいしか浮かばないですよね。

―興行全体としてのらしさを築きたいという思いですか。

長州 昔みたいな負担はないですよ、僕には。でも一生懸命やってんですよ。

―前回は飯伏幸太という現在のプロレスを象徴する選手と組み、間近で見ました。

長州 ああ、今の選手ですよね…今の選手っていう言い方はちょっとおかしいですけど、身体能力もあるし「なるほどなあ」って思いましたよ、見てて。

―立体的で独自性のある技を使うスタイルの選手です。

長州 でも、ああいったのは(武藤)敬司も若い頃はそういうスタイルやっていたし、タイガーマスクもいたし。長くやっているとそういうのにアレはないですよ。ただ、動きとか見ているといいですよね、流れがね。本人、自分の流れがあるみたいだし。

―長州さんから見ても飯伏幸太という人間は変わり者ですか。

長州 いや、それはないですよ。変わり者だって周りが言ってたけど、俺にとっては…うん。何が変わってんのかなって、最後までわかんなかった。

―そうだったんですか。第2弾となる今回は専修大学レスリング部の後輩にあたる秋山準選手との初遭遇が注目されています。このタイミングで秋山選手と対戦することについてどう感じていますか。

長州 よく腰上げてくれたなと思いますよ。こっちが希望しても、本人が腰を上げないとなかなかね。まだまだ微妙に閉鎖的なところもあるだろうし。それでいて元・新日本のヨシタツと、あまり関本(大介)と組むことはないんだけど、向こうには秋山、それと今、飯伏と同じような…。

―黒潮“イケメン”二郎選手です。

長州 ああ。それとチンタの息子(橋本大地)と、みんな何か…まあ、そんな太くはないけど細いアレでつながっているのかなと思って。長年やっていて全然縁がないわけでもないし。

―カード発表会見で長州さんご自身がこの試合にとてもワクワクしているのが伝わってきました。

長州 ワクワクはしてないですけど、道場いって汗を流してトレーニングしていても疲れる…まあトレーニングは疲れるんですけど、意味がないっていうか、なんかこう…。

―張り合いですか。

長州 うん、なんかこうね。でも2回目のカードが決まってからはトレーニングにも欲が出てきたし、やっぱり違うのかなって。今までも好きだから体を動かしてるんだけど、あまり実になるようなトレーニングをしたいなという気にはならなかったんですよね。でも、今日もこんなに天気がいいんだから、こういうこと(取材を受ける)しなくたっていいように汗を流したいなって、そんな感じはしますよね。

―秋山選手が1992年に全日本プロレスでデビューした時点で、その存在は長州さんの目に入っていたんですか。

長州 僕はね、デビュー戦とかは見てないんですよ。彼はもっと下でしょ。中西(学)とクロスするぐらい?

―中西選手が秋山選手の3年先輩に当たります。

長州 でしょ。だからあまり接点はないですよね。ただ、たまたま同じ専大で同じレスリングをやっていたという。全日本と新日本という大きな組織があって、新日本は(スカウトを)考えなかったのかなっていうのはありますよね。

―それは当時から思われていたことですか。

長州 当時というか、彼がプロレスの世界に入るとは思わなかったですよね。素材的に中西とかはすごいなとかゴッツいなあとかあって、でもその時本人は社会人でしたから、それは馳(浩)と2人で呼び出して声をかけたことは憶えてますよ。ただ、その下の秋山になると…でも、その時は新日本に来てもよかっただろうし、全日本にいっても…全然アレがなかったのかなって。

―秋山さんが言うには「ジャイアント馬場さんに声をかけられるまではプロレスラーになるという考えがなかった」というのが全日本に入団した理由だそうです。

長州 みんなそうやって言うんでしょうね、僕もそうだし。馳は入りたがったみたいだし、中西は社会人で(転身を)不安がってたし、それを話して取り除いてやって入門したっていう。

―今の秋山準というプロレスラーにはどんな印象をお持ちですか。

長州 大変なんじゃないですか、今の時代ね。でもなんか、全日本を秋山が仕切り出して昔の重みっていうか、そういうのは。興行的にも上がってきているんじゃないかって。

―ファンの支持は少しずつ、着実に上げてきています。

長州 やっぱり我々はスッとリングに向かって、見られてというものがありますから、体のデカい選手はまず目に入るっていうのは当然のことで。なんで全日本となると体が大きいのかなって、いまだもって不思議なんですよね。まあ、新日本もけっして小さいんじゃないけど、やっぱり馬場さん・猪木さんの時代から大きいですよね。新日本も坂口(征二)さんなんかも大きい方だし、大きい選手もいたけど少ないっていうか。あとは僕ぐらいが平均で、みんな全日本大きいですよね。だから見栄えがするっていうか、リングの中での一つひとつの見られ方が全然ね。こっちが10発殴んなきゃいけないのを向こうは1発でいいっていうぐらいの納得感が体から出ますよね。その分、シンドいですよ。秋山はそんなにデカい方ではないけど、また違った意味で形通りになるのかなっていう部分ですよね。

―形、ですか。

長州 どういう形になるかっていうのが、自分自身も三十代、四十代ぐらいの時の高揚感があがってくるっていうのはありますよね。

―その高揚感は“楽しみ”から来るものですか、それともある意味“怖さ”から来るものですか。

長州 楽しみであるし、不安感はどういう試合でも僕は常に持っていますよ。本当に、無事リングを降りれればいいといつでも思っています。だから、怖さっていうか気は絶対に緩めないようにしていますよね。その気持ちの張り具合が久しぶりにいい状態で、気持ちいいなあと思っていますよね。

『パワーホール』は最後まで 聴いたことがないんですよ

―長州さんがよく言われる“インパクト”で秋山準を上回りたいという思いですか。

長州 いや、僕はまったくそういうのはないですよ。

―ないんですか。

長州 上回るとかそういうものはないですよ。よくテレビのバラエティーなんかに出たりして芸人さんにイジられながら「キレてますか」「キレてませんよ」とかそんなこと言ってんですけど、それは今の時期、俺に言わない方がいいよっていうぐらいの気持ちの自分が…うん。あとは自分が本当にそれを出せるのか出せないのか、またそれがきれいに見えるのか、見えないのか自分でも読めないっていうか。それでも出したい、出さなきゃいけないぐらいの気持ちはありますね。

―見る側としてはきれいな形で見えない方が刺激的かもしれません。

長州 それは僕が問うところじゃないですよ。見る側がどう思おうが、こう見てくださいとか普段と違いますなんていうのはまったくないですよ。本来、僕の試合は流れなんかはないですけどね。どういう具合に見られたいとかそういうものもないです。

―昔はあったんですか。

長州 ああ、昔はやっぱりありましたよ。三十代、四十代の時は試合をやっていてもお客を見ている方が多かったかもわかんないですね。

―観客の存在が頭に入ってたんですね。

長州 それはもう、一番最初からですね。後楽園だったら10列目ぐらいまでなら全部顔が見えてましたよ、やりながら。それが変わったのは自分がトシをとって衰えて、自分のことしか頭入んないから。リングの上は怖いっていうね。ここ何年間、自分の感情がグワーッっていうのが…それは間違いなく年齢があってそういう部分で。自分で抑えて…抑えるってこともないんだけど、いくような気持ちになれないっていう。その間に無事リングを降りられればっていうところがあるし。でも今回はちょっと久しぶりに、大きな試合の前はサイパンへいったようなね、それぐらいの意識を持って徐々に入っていけてるんですよね。

―この数年、そういう気持ちになれなかったのは藤波辰爾さんのようなライバルの存在や、アントニオ猪木さんのような大きな目標たり得る存在がいなかったこともあるんでしょうか。

長州 それと完全にトシですね。あまりにも空きすぎるというか、年間終わっちゃうとホッとしてっていう。まあでも、リングは常に厳しい場所であるし怖いところであるし、無事降りてきた時が一番ホッとしているっていうところですよね。インタビュー(バックステージコメント)が終わった時が一番ホッとしている。本当は「おまえら、何がわかってこういうインタビューしてんだ?」って腹の中では思うもんな。つまんねえこと聞きやがってって、ホントはいっつも思ってますよ。だから早くパパッとやってパパッと終わる。タイツの紐をほどいた瞬間が一番…僕、すぐほどいちゃうんですよ。まあ、ちょっと長すぎたかな、トシも食いすぎたっていう部分もありますし。でも、いくつだって言われても全然隠す気もないし。そのうち体が動かなくなるわけですから、そうしたら上がれないわけですから。

―それでは最後に2つご質問させてください。前回、今回と中嶋勝彦選手が参戦します。長州さんのスカウトでプロレス界に入った中嶋選手がこういう形で上がるのは当時を見ている者として感慨があるのですが、他の出場選手と同様、中嶋選手も現在のプロレスを担う一人と映っているわけですか。

長州 そこはまったくわからないですよ。いろんな選手に参加してもらっているけど、そこまで考えがいかないですよね。だからそのへん(二人の関係性)はひっつけない方がいいですよ。まあ、上がってくれる選手は個々に意識して上がってくれるとは思っていますから、それがPOWERHALLの特徴でもあるし、そんなところですよね。

―最後に、大会名にもなっている入場曲の『パワーホール』についてなんですが、ファンの間でも人気が高く、思い入れを持たれています。長州さん自身、この曲への思いは…。

長州 ああ、最後まで聴いたことないんですよ。

―ええっ、ないんですか!?

長州 最初だけで、最後はなんか柔らかくなっていくアレじゃないですか。

―……フェードアウトのことですね。

長州 長年やってきましたけど、長く聴こうとは思わないですよ。どこの会場であろうが、たとえドームであろうが。よく止められたんですよ。

―止められた?

長州 テレビの人が「もうちょっと(入場するのを)待ってください」って。反対に待ってるやつを見ると「はー…」って思いますよね。まあ、それは選手個々の見せ方だろうし…いいですか、そんなところで。