鈴木健.txt/場外乱闘 番外編

スカパー!公認番組ガイド誌『月刊スカパー!』(ぴあ発行)のスポーツ(バトル)では、サムライTVにて解説を務める鈴木健.txt氏が毎月旬なゲスト選手を招き、インタビュー形式で連載中の「鈴木健.txtの場外乱闘」が掲載されています。現在発売中の2023年5月号では、第106回ゲストとして大日本プロレス・岡林裕二選手が登場。誌面では惜しくも載せられなかった部分を含めて大公開!!

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岡林裕二(大日本プロレス)x鈴木健.txt 場外乱闘 番外編

大日本は自分たちで全部やる
達成感がハンパじゃないんです

岡林裕二(大日本プロレス)

昨年の横浜武道館は初両国の
時の気持ちが蘇った感じでした

大日本プロレスは旗揚げ以来、地元・横浜のビッグマッチとして横浜文化体育館をメッカとしておりましたが、同会場が2020年9月に閉館となった以後、昨年5月5日に横浜武道館へ初進出を果たしました。あれから1年が経ち再び同所へ戻ってくるわけですが、メインイベント(関本大介とのBJW認定世界ストロングヘビー級王座防衛戦)を務めたご本人はどんなものとして残っていますか。

岡林 大きな会場での試合が久々だったのでガッチガチに緊張したのを憶えています。

このキャリアでも緊張するものなんですか。

岡林 元が緊張しいなんで。試合前、売店へいく時に控室からアリーナへ出た瞬間にお客さんがバーン!って入っている光景が久しぶりすぎだったんで、圧倒されて心臓がバクバクなり始めたんです。初めての両国国技館(2015年7月20日)の時も、他団体さんで経験していたこともあって売店に立っている時はなんとも思わなかったのが、入場で出た瞬間にお客さんの数が飛び込んできて、あれを久々に味わいましたね。なので文体とは違う感覚でした。でも、すぐに「よしっ、こんなにもいるお客さんに俺と関本さんの闘いを見てもらおう! ピッサリ!!」ってなれて、リングに上がる直前は緊張しなかったです。それで勝って、これほどの会場で関本さんとやって勝ったからにはずっと防衛せなあかんって思ったのを憶えています。

あの試合はアルゼンチン・バックブリーカーで関本選手からギブアップを奪うという結果でした。それまで関本選手に勝った時とは違う味わいがあったのではと思います。

岡林 これも最初の両国国技館の時の気持ちが蘇った感じでした(メインで関本に勝ちストロングヘビー級王座を初奪取)。勝つことによって、より自分は負けられんってなる存在が関本さんなんです。リングの上にあるビジョンとかは文体の時と違いますけど、一緒に動いたり手伝ってくれたりするスタッフは同じだし、形自体も長方形の造りで文体と同じというのもあって、そこまでは初めての会場だなっていう感覚にはならなかったですね。

昨年の1・2後楽園で野村卓矢選手に勝ちベルトを奪還し、今年3・11後楽園の大門寺崇(LAND’S END)戦で7度目の防衛に成功したあと、誰も挑戦してこないと憤りをあらわにしました。

岡林 大門寺とやったあと、絶対に誰かが上がってくると思っていたんです。でも上がってこなかった。俺も言わなかったのは悪かったんですけど。「次は誰や?」みたいに言ったら来たやつがいたかもしれないけど、その時は「なんで誰も来んのや!?」って、ただただ頭に来て。横浜武道館に向けてジュニアもタッグもガンガンやっている。それを見ていて腹が立ってしゃあなくて、名古屋大会(3・26ダイアモンドホール)のバックステージで爆発しました。ええ加減にせえよ!って。あれはいろんなもんが重なったんですよ。関札(皓太=BJW認定ジュニアヘビー級王者)を見ていると武道館に向かってまあ充実した顔をしている。それを見るたびに俺ん中でモヤモヤが溜まっていった。俺がモヤモヤしてるんだったら、おそらくお客さんも「ストロングヘビー、どうすんのよ?」ってモヤモヤしているはずですよ。

その2日後の後楽園で青木優也選手と関本大介選手が名乗りをあげました。

岡林 青木はね、ちょこちょこと反応はしてたんです。直接リングに上がってはこなかったですけど、それは大門寺に(次期挑戦者決定戦で)負けているからアピールしにくいというのがあったんじゃないですか。でも、SNSでどんどん発信していたんで。

自分から挑戦者を逆指名しようとは思わなかったんですか。

岡林 それがねえ…ちょっとはありました。(橋本)大地だったり中之上(靖文)選手だったり、元ベルトを持っていた人たち。大地は去年の10月に防衛戦で勝っているんですけど、内容的に自分の納得がいかなかったのでもう一度というのがあって。あとは中之上さんかなと思っていたんですが…。

なぜ言わなかったんですか。

岡林 言おうとしたんですけど…来てほしかったんですよ! こっちから言うよりも…。

告白するんじゃなく、されたいタイプ。

岡林 されたい! そんなに魅力がないのか、このベルトはと。俺もそうやけど。俺にも魅力がない、ベルトも魅力ない…腹立ってきて。でも、俺は待つ。待つ、待てども、待てない…よし、言おう!っていう矢先に青木が来た。下の若いのが噛みついてきた方が俺は嬉しいんで。そうしたらいきなり関本さんも来て。

その前に(4・15)札幌で挑戦させろと。

岡林 えーっ!?ですよ。横から来ましたよね、あれ。そこからの青木ですから。デビュー戦の相手をしたんですよ、青木の。初めてあいつと会ったのって、横綱・白鵬関が現役だった時、関本さんといったパーティーだったんです。「プロレスラーになりたいやつがいるから会ってあげて」って後援会の方に言われて。初対面の時点で、あの目で真っすぐに俺のことを見て「プロレスラーになりたいんです!」って、すでに熱いんですよ。もう、こいつは何かをやってくれるわってなりますよ。入門テストも気合入ってやってましたよ。

プロレスラーになる前からあの目つきだったんですね。あんな目をした一般人いないですよ、普通。

岡林 こっちが「おおっ!?」ってなったぐらいでしたから。語りかけてきた時も熱かったんです。そんな青木とタイトルマッチをやるんですからね。

しかも年間最大のビッグマッチで。

岡林 毎回全力でやっていますけど、武道館はいつも以上の全力でいかないといけないと思っています。

俺にしかできないことを考えたら
落ち着くことではないよなって

今、全力と言われましたが、14年のキャリアを積んだ今でも本当に岡林選手はどの試合も例外なく全力ですよね。若い選手の中に入っても一番若手のプロレスをしているのが岡林選手なんですから。

岡林 ウハハハハハ。

2・13後楽園ホールで関本選手と組んでアストロノーツ(野村&阿部史典)と対戦したじゃないですか。あの時もハッチャケるカラーのアストロノーツよりハッチャケて、ガンガンとガツガツといった揚げ句、最後は関本選手ごとゴーレムスプラッシュで潰してしまい(野村と)ダブルダウンで試合が終わってしまうという、あまり見たことのない結果を招いてしまいました。あれも、もうちょっとブレーキがかかれば避けられた惨状だったと思われます。

岡林 (ピッサリ顔で)負けたくないんですよね!

それはよくわかります。でも、あそこまでガツガツせずともキャリを積んでいる者らしく落ち着いていった方が、むしろ勝てるのでは?

岡林 うーん…特に、関本さんと組んでいる時は負けるはずがないと思ってやっているから、あのスプラッシュにいった時はどうなってもいい!って、なかばヤケクソ気味にいったんです。

つまり、ヤバくなったら関本選手がなんとかしてくれると。

岡林 負けるはずがないタッグチームなんだから。だからあの時、自分が考えていたのはとにかく3カウントを獲られたくない、阻止したいっていう気持ちだけでスプラッシュにいったんです。

確かに野村選手がフォールにいったカットプレーだったんですよね。それが、関本選手まで圧殺してしまいました。そうなると考えなかったのですか。

岡林 ……あのー、たまにはあるんですよ。試合前に「今日は落ち着いていこう。まずは相手の様子を見ながらやってみよう」って思うことが。でも、いざゴングが「カーン!」となった瞬間にそれを忘れちゃうんです。

ゴングの音によって見境がなくなると。

岡林 せっかく作戦を立てても、その作戦を忘れちゃうんです。そうなると、作戦を考えている時間自体が、無駄になっちゃう。まあ、関本さんと組んでいる時は暴れすぎても関本さんが修正してくれるし、その関本さんを見ているうちに自分も冷静になっていって…もう、阿吽の呼吸ですよ。

ずっとこの調子でやっていくつもりなんでしょうか。

岡林 たぶん。でもどうなんでしょう、見ている方は。

いや、見ている方は断然面白いですよ。40歳のおっちゃんが若い選手よりも若手らしくガツガツやっているなんて、ほかにいないですから。

岡林 この風貌で若手がやるプロレスを…なんかね、やっちゃうんですよねえ。そこは対戦相手に負けたくないというのと同時に、対お客さんってあるじゃないですか。お客さんを楽しませなければならない、それには俺はどういうスタイルが好まれるのかと思った時に、やっぱりこれなのかというのが答えだったんで。プロレスって隙間産業というか、人がやっていないことをやるのが大切じゃないですか。俺にしかできないことって考えたら、それは落ち着いたり相手の様子を見たりすることではないよなって。青木がちょっと似ているところありますよね。

言われてみればそうですね。いい意味で落ち着きがない。

岡林 俺が熱くなればなるほど向こうも熱くなって、また被せてくるから「こいつ、ホンマにどこまでも被せてきよって!」って思いますもん。

それはたぶん、青木選手も岡林選手に対して思っているでしょう。

岡林 ウワッハッハッ! 確実に思うとる思うとる。「おっさんのくせに落ち着かんな」って。

そんな青木選手と大場所でタイトルマッチとなったあかつきには、どちらも落ち着かずにガツガツいくのが目に見えています。また、体力的にもそれができてしまう。

岡林 シンドいと思ったことはないですね。スタミナや体力が落ちていると感じたことはない。あー、でも瞬発力系はちょっと落ちたかな。

まったくそうは見えません。ミスター瞬発力のままだと思うのですが。

岡林 ウエートリフティングだと数字で出るじゃないですか。そういうのを練習でやると上がらなかったり、スピードが落ちていたりが目に見えるんで、落ちているのがわかるんです。

リングに上がれば気持ちでいくから、数値とか数字は吹っ飛んでしまうのかもしれません。

岡林 記録を更新するトレーニングはもうしていないので、それもあるんでしょうけど。今は軽いものを回数増やしてやっています。

トレーニング以前に重いものを持ち上げるのが好きで好きでたまらなかった岡林選手は、それで満足できているんですか。

岡林 本当にそうですよね。今も街を歩いていて、石があったら持ち上げます。都会はないですけど、田舎になると道端にデッカい石があるじゃないですか。それを見ると転がしたくなるんです。だから、トレーニングでも数字を伸ばしたいとたまに思うことはあるんですが。

MAXでは何歳の時に出したものになるのでしょう。

岡林 デッドリフトでは…DDTの竹下幸之介選手と新宿FACEでデッドリフト合戦をやった時は300kg。これが最高の数字。今、40であれが7年ぐらい前だから…えー……33歳ぐらいの時ですね。

今の年齢でその記録を更新したいとは思いませんか。

岡林 やったらできるとは思います。というのは、瞬発力に関しては伸びるものではなくて、あとは落ちていく一方なのに対し、筋力はこれからも伸びるんでパーン!ではなくゆっくりとグッと上げることは可能です。350kgぐらいまでにこれから伸ばします。気持ち的には自分、入門当時からまったく変わっていない気がしていて。

ケガしても棄権しなかったタッグリーグ
そこで待ってくれるのが大日本の選手

ビジュアルも形状記憶人間のようにビタ一文変わってないですもんね。そうした中で1年5ヵ月もベルトを防衛し続けると、今回のように強すぎるがゆえ相手がいないというジレンマが訪れてしまいます。

岡林 それ、いろいろ考えました。難しいです、これは。プロレスって、個人であってチームワークなんですよね。エンターテインメントとしてお客さんも楽しまなければならない。その中で、競技と違うから最強すぎても見ていて面白くないと思うんです。

ここで言う競技とは、個人の記録を競うという意味ですよね。

岡林 最初は「おまえら、俺を追い越せ」という考えだけだったんですけど、自分だけが上を向いて突っ走って下を見ていなかったと思うんです。気づいたら後ろを振り向くと誰もいない。

強さを求める上では理想的です。

岡林 でも、それはいかんって思いました。やっぱり先頭を走りながら引っ張っていかなレースとしてはつまんない。2年ぐらい前、そこに気づきました。もともと競技出身(ウエートリフティング)だから、人が風邪をひいても俺は絶対にひかん!という世界の考えのままプロレス界に入ってきて、ずっとそのままやってきたんです。個人でありながら団体競技なんだから、みんなで引っ張り合って上に昇っていかなければいかんって最近になって思うようになりました。自分のとこの団体を上に持っていかなあかんのに、後輩のことが見えてなかった。

だからこそ、それに応える人間が出てこなかったことで腹が立ったのかもしれませんね。

岡林 青木や野村は俺が突っ走ってても追いかけてくるし、時には抜かれた!って思う瞬間もあります。最近で言えば、野村は全日本プロレスで三冠ヘビー級に挑戦したじゃないですか。俺がやってないことをやったという意味で、あそこは俺を抜かしたんです。でも、その2人だけじゃなくみんなを今、自分が走っているところにまで連れていかなきゃ団体として上がっていかない。

一方では大門寺選手とのタイトル戦が熱いものになったり、最侠タッグリーグでは2AWのチチャリート・翔暉選手と組んで出場したりしましたが、他団体の選手もさらに巻き込みたいという意識はありますか。

岡林 それもあります。すごい選手、いっぱいいますから。大門寺もガツガツしていたし、あれを所属選手が見て何も思わなかったのか。あれを見たらもっとガツガツしないとって思うでしょう。

チチャリート選手はまったくタイプが違うのに、岡林選手のカラーをいい感じで採り入れています。意外なところにイズムが派生しました。

岡林 全然違うタイプなのに、ピッサリ!って。チャチャ…ん? チチャか、チョップもけっこういいのを打つんですよ。気持ちも強いし。

チチャっていいづらそうですね。

岡林 この間、2AWのタイトルマッチで吉田綾斗選手にアルゼンチン・バックブリーカーを出したって聞いて、嬉しかったです。

今後、ピッサリイズムの継承者がどんどん出てくるのでは。

岡林 広まってほしい。ピッサリを使う分には全然OKなんで。

その最侠タッグリーグが2年越しで開催されたじゃないですか。とてつもなく長いリーグ戦だったんですが、あれはプレイヤーとしてどうだったんでしょう。

岡林 あれは俺が悪い。2ヵ月欠場したのに棄権しなかったんです。それでだいぶ日程が変わってしまった。チャチャ…チチャも他団体から来ているから日程を合わせづらい。でも、3試合ぐらいやっただけだったんで諦めたくなくて、棄権はしませんと。リーグ戦に出ているタッグチームには申し訳なかったけど待ってくれって。

リーグ戦で2ヵ月待ってくれって、前代未聞ですよ。またそこで、誰も異を唱えないのが大日本らしいというか。「それはおかしいだろ。欠場するんだったら不戦敗じゃないか」といえば勝ち点が得られるのに、どこもそれを言わなかった。

岡林 10月のリーグ戦が始まった矢先にケガして、12月復帰ですから。いやあ、みんなもよく待ってくれましたよね。なのに優勝できなかったという。

そこまでやってもらいながら、優勝を逃しました。

岡林 ほかの団体なら、ケガしたらそこで終わりでしょうね。そこは優勝決まるのが来年になってもいいかぐらいに思ってやれる…5月の後楽園と名古屋もそうじゃないですか。

5月28日、同じ日に後楽園と名古屋のダイアモンドホールを押さえていたことに誰も気づかず、昼・後楽園、夜・名古屋のダブルヘッダーで開催するという。

岡林 普通は誰か気づきますよねえ。試合が終わった人間からどんどん名古屋に向かわないと…あれ? そうなったら後楽園のリング撤収やるのおらんな。

メインに出た選手だけでやるとしても名古屋に間に合わなくなる可能性があります。

岡林 大日本のリングは先に名古屋へいっているんで、後楽園のリングは借りると思うんですけど、撤収はせなあかんしな。これも誰かに手伝ってもらうことになりそうです。蛍光灯やったら掃除が大変だから、その日に関しては控えた方がいいかもわからんですね。

でも、やっちゃうんですよね、どちらかをキャンセルするのではなく。むしろ喜んでやるぐらいで。

岡林 お祭りだと思っとんやないですか。やれるんだったらやるのが大日本なんで。

やれるというより、無理やりやれる方に持っていっている気がします。

岡林 そういうのが身に染みついているから、普通にやっちゃうんですよね。疑問に思わない。「昼・後楽園で夜・名古屋ね」って言われても「あ、わかりました」っていう感じで。あとになって「やっぱ、おかしいわ」と思うんですけど、その時には思わないんですよ。そういうのが多いから。

稀ではなく、多いと。

岡林 あとになってから「あれ?」って思うことが多すぎます。

その場では「あれ?」と思わず、受け入れられる人間が集まっている団体というのがいいことなのかどうなのか難しいところです。

岡林 「ちょっと勘弁してくださいよ」とか「いい加減にしてください!」っていうのが一人もいないですね、ウチは。あっ、リーグ戦がDVDになった時、タイトルはどうするんですかね? 2022? 2023?

そこですか! リーグ戦の名称が「最侠タッグリーグ2022」でしたから、2022のままだと思われます。なので今年の秋には「最侠タッグリーグ2023」が開催されて、また優勝は来年決まるのかも。

岡林 いや、さすがにウチでもそれはないでしょう。でも…誰かが欠場したらみんな待つんでしょうね。そこがすごいですよね、ワッハッハッ!

もう、笑うしかないですよ。

岡林 それが大日本なんですよ。入門した当時から「あれ?」と思うことがあったんですけど、みんな何も言わないからこれが普通だって思っちゃったんですよね。それがずっと来て体に染みついている。

若い人間には「プロレスやるためだけに
鍛えているんじゃないぞ」と言います

でも、そういうところが好きでファンは大日本を応援してくれているのだと思います。今のプロレス界はブシロードやサイバーエージェントのように大企業が親会社につかないと、自家製で続けるのが難しい時代です。そういう団体の人間として正直、羨ましいと思うことはありますか。

岡林 やっぱりあります。デカい会場ですごい照明や機材を使ってやっているのを見ると、ああいうところでやってみたいなって、それは思いますよ。でも、自分たちで全部やる楽しさもあるんで、達成感が違うんです。デスマッチのアイテムから手作りで、リングも自分たちで設営して、売店もやって試合して、撤収までやって終わった時の達成感ってハンパじゃないんですよ。これって、一日の集中力を切らせたらできないことなんです。そのために体を鍛えているという部分もありますよね。試合だけじゃないし、試合とは別の部分での体力も必要になってくる。だから、若い人間には「プロレスやるためだけに鍛えているんじゃないぞ。大日本は全部やらなあかんから、それができるように鍛えるんや」って言っています。

なるほど。

岡林 設営も撤収も、グッズを売るにも重いものを運ばなあかん。これがビッグマッチになったら2倍3倍やらないかん。広い会場をいったり来たりするだけで普段と違う体力を消耗する。それができるだけの体に鍛えておけって。

その充実感が何物にも代え難いから大日本に居続けると。それこそ、やろうと思えば他団体でも十分やっていける実力と実績を誇りながら。

岡林 でも、華やかでいいよなあって思うのも正直なところなんですよね。

誤解を恐れずに言うと大日本って、徹底して華やかじゃないですよね。だからこそファンとの距離感が近い。そちらの価値観を優先しているように思えます。

岡林 それも隙間産業じゃないですけど、ヨソと同じことをしててもダメだなっていうのがあるんで。俺らには俺らの魅せ方があるはず。それは華じゃないよなって。俺はデビュー時から一度も黒パン(タイツ)を変えていないですけど、格好じゃないなっていうのがあって。デスマッチが団体のカラーになっているのも他と違うことをという意味ですよね。

当面の課題としては、観客動員をコロナ前に戻すことと思います。

岡林 もちろん動員を伸ばす努力はしていかなければならないんですけど、僕がずっとやってきた中でどうしても入る時と入らない時ってあるんですよね。これはウチに限らずメジャー団体さんも入らない時期があった上で今は入っている。その上で、この何年かはコロナで選手が営業にいけなかったというのが大きくて。でも、コロナがこういう状況になってきたので、ここからはマンパワーで営業やろうと考えています。そこはすべて自分たちでやっているというぐらいだから、営業も自分たちでやらないとすべてとは言えなくなる。今も営業のスタッフが一生懸命やってくれていますけど、これからはまた選手たちも総出でやって一人ずつでもお客さんを増やしていくことですよね。

そういう時に、チャンピオンベルトを持っていると強いですよね。

岡林 どこにでもいきますよ、ベルト持って。それこそ居酒屋に飛び込んで「こんばんは、チャンピオンです! チケット買ってください」って。

いきなりチャンピオンが現れたら盛り上がって買おうとなりそうです。

岡林 顔を出すっていうことが大事なんですよ。そして、そういうのも含めての体力。リング上だけじゃないっていうことです。

わかりました。それでは最後に…この連載には過去2度登場していただいておりまして、その時にマイピッサリ(ブーム)を答えていただいております。1回目はリングトラックのDIYカスタム(運転席の装飾)で、2回目はホルモン焼きうどんでした。今は何に凝っていますか。

岡林 作ってましたねえ、懐かしい! 今は、何かな……(長考)あっ、辛ラーメン! 毎日じゃないんですけど、アレンジレシピをYouTubeでやってて、それを見ながら作ってます。最近だと部隊チゲが最高傑作。

部隊チゲを自分で作っちゃうんですか。

岡林 あとは冷麺や汁なし麺を辛ラーメンで作ったり。辛ラーメンってね、けっこういろんなことができるんですよ。家で作るんですけど、凝ったらヤバいですね。嫁に嫌がれる。

えっ、喜んでくれるんじゃないんですか。

岡林 いやいや、キッチンを占領してしまうから。使い方がヘタクソなんで、辛ラーメン一個なのに全部使っちゃうんです。まあ、できたらできたで旨い旨いって食べてくれるんですけど。

そんなお父さんがいたらいいなって思いますよ。道場ではないんですか。

岡林 最近はないな。そうか、作ろうかな。

ではぜひ、大日本の売店でも。ホルモン焼うどんも売店でやってくださいと提案したのに(コロナ前)動かなかったですよね。なので今回こそはぜひ。

岡林 ピッサリ辛ラーメン…いいですね!