鈴木健.txt/場外乱闘 番外編

スカパー!公認番組ガイド誌『月刊スカパー!』(ぴあ発行)のスポーツ(バトル)では、サムライTVにて解説を務める鈴木健.txt氏が毎月旬なゲスト選手を招き、インタビュー形式で連載中の「鈴木健.txtの場外乱闘」が掲載されています。現在発売中の2019年9月号には、第67回ゲストとしてプロレスリング・ノアの中嶋勝彦選手が登場。誌面では惜しくも載せられなかった部分を含めて大公開!!

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中嶋勝彦(プロレスリング・ノア)x鈴木健.txt 場外乱闘 番外編

ノアの怪奇派?
ちょっと視点を変えたところに
新風景があったということです

中嶋勝彦(プロレスリング・ノア)

©プロレスリング・ノア/FIGHTING TV サムライ/カメラマン:中原義史

「N-1のNは中嶋のN」
王者vs覇者と決まっている方がいい

昨年までの「GLOBAL LEAGUE」をよりグレードアップさせるというコンセプトで、今年からN-1 VICTORYとなりました。

中嶋 最初、名称が変わったのを聞いた時点で「N-1のNは中嶋のN」だと思いました。

いきなりぶっこんできましたね。

中嶋 参加選手中、イニシャルが“N”は僕しかいないですから。会社の方がグレードアップすると宣言したということで、本当にヘビー級の中から選ばれた者しかエントリーされていないのを見てわかる通り、レベルの高い闘いになると思います。

はじめからグレードが上がると宣言したのは、会社から選手に対する期待でありプレッシャーでもありとなるわけです。

中嶋 そこは参加する選手も意識しているでしょう。N-1の闘いって、リーグ戦開催中だけのことじゃないと思うんです。日々の闘いで見せてきたことがエントリーされるという評価につながるわけじゃないですか。だから一年間の中で息をつくことができないリングに今のノアはなっているということです。なので、ハードルを上げられても自分は何も問題はないですね。

本来ならばGHCヘビー級のベルトを奪取して出たいところでしたが、7・27川崎大会で清宮海斗選手に退けられてしまいました。

中嶋 清宮の強さって“思い”だと思いました。ノアをこうしていきたいという気持ち。リングの上で最後にモノを言うのって、体力や技術よりも気持ちでしょ。どんなに体力があって、どんなに素晴らしい技術を持っていても、気持ちが途切れたらそこまでなんですよ。この前の試合では、それを一番感じました。

中嶋選手は15歳でデビューしたため、これまでのほとんどが年上か同世代にぶつかっていくというシチュエーションでしたが、年下の人間に挑戦するという年代になったんだなと思いました。

中嶋 清宮には去年のGLOBAL LEAGUE(N-1 VICTORYの前身となるシングルリーグ戦)の優勝戦でも負けているので、そこは素直に悔しいですよ。自分よりキャリアの下の人間と当たること自体があまりなかった中で、こういう負けを味わって…ただ、チャンピオンの方から両国で優勝者とタイトルマッチをやりたいという話が出たことで、気持ちは入れ替わりました。チャンピオンがエントリーしないことで賛否両論ありますけど、僕はわかりやすくていいなと。あらかじめ王者vs覇者が実現するって決められた方が、優勝したあとにいちいちアピールしなくていいし、ほかの選手もそれを前提に闘うわけだから厳しい試合になることでのゾクゾク感? 僕はその方が燃えるんで。

これまではリーグ戦の中でチャンピオンに勝ったら「あの時、勝っているから挑戦させろ」とアピールするのが通例でした。

中嶋 そういう形以上に、リーグ戦そのものが意味のあるものになるし、公式戦の一試合一試合が貴重なものになってきますから。1ブロック5人ということは一人の公式戦が4試合ですよね。1敗しただけで1位になるのは厳しくなるんで、全勝しなければ優勝戦には出られないと考えています。

昨年まではシングルのリーグ戦は秋に開催されていましたが、今回は真夏です。

中嶋 そこは気にならないです。常にベストのコンディションでいられる自信があるし、シングルの連戦も問題ない。よく言われることですけど、意識したことないんですよね。

2016年に新日本プロレスのG1クライマックスに参戦した時に、真夏のシングル連戦を経験しています。

中嶋 あれが糧になっているとも思います。確かに試合数も多くて厳しかったですけど、その経験によってシングルが続くことを特別に意識しないんでしょうね。

夏は好きですか。

中嶋 暑いのも寒いのも嫌いです。好きな人いますか? でも、嫌いだからといってそれがコンディションに影響を及ぼすことはないんで。夏だからいつもよりもへばるということもないし。へばったら試合中に水を飲めば大丈夫。熱中症だけは鍛えているといえども気をつけなきゃいけないので。道場なんて夏場は50℃ぐらいに感じる中で冷房もなく扇風機だけでやっているんですけど、ほとんど熱風なんですよ。その中でやっているからスタミナもついているし。ほかの人と比べてスタミナがある方なのかどうかは考えたことがないけど、自分の中でこれぐらいはいけるというのはつかめています。

中嶋選手のBブロックは拳王、谷口周平、望月成晃、イホ・デ・ドクトル・ワグナーJrがエントリーされていますが、この中で拳王選手と望月選手が同じ蹴りの使い手です。

中嶋 僕も真っ先にそれを思いました。なんでこっちに3人もいるんだと。でも、僕にとってはありがたいメンツ。蹴りの使い手とやることで、中嶋勝彦の蹴りが一番すごいということを見せつけられるから。

ああ、比較対象があった方が伝わりやすいと。

中嶋 そうそう。だから初戦(望月戦)から楽しみにしています。望月さんとは新木場でやって引き分けた記憶が残っています。

望月成晃プロデュース興行「武勇伝」ですね(2009年7月26日。21分21秒、両者KO)。そのあと1週間後にDIAMOND RING後楽園で再戦して、その時は中嶋選手が勝ちました(21分25秒、ジャーマン・スープレックス・ホールド)。

中嶋 だとすると10年ぶりになるんですねえ。あの時、望月さんは40近くで、今の僕よりも年上なのにすごいスタミナだと思った印象が強くて。今の自分と比べると怪物ですよ。

体力的にはあまり変わっていないようです。

中嶋 どうなってんですか、それ!? ストイックなんだろうなあ。拳王ともシングルは久々だし…今、ユニットを動かすので必死みたいですけど。(金剛は)拳王が動かしているように見えて裏でコントロールしているのは稲村(愛輝)かもしれないですよ。

一番キャリアの短い稲村選手がですか。

中嶋 キャリア半年ぐらいで、もう会社に対し不満を抱き行動を起こすっていうのもあまり聞かないですよね。どういうつもりなのか聞こうにも「はい」しか言わないだろうし。

そこは新人らしくしているんですね。

中嶋 そういう人間がカギを握っているかもしれないじゃないですか。今のノアは動きが速くて何が起こるかわからないんで。

そういう中で、AXIZはいい意味で安定していますよね。なんであんなに潮崎豪選手との仲がいいんですか。

中嶋 いや、それまでタッグをなんで組んでいなかったのかと自分でも思うぐらいで。それが逆によかったのかもしれないです。会社の状況やタイミングも含めて今だったのではと。そこは当事者である僕と豪さんの意思だけでなったのではないんだと思います。

これまで組んできたタッグパートナーと比べて、潮崎選手ならではの感触は何かありますか。

中嶋 (即答で)信頼感。同期ならではと言ったらそのひとことで終わってしまいますけど同じ時代を生きてきて、団体は違えども偉大な師匠の近くにいたという共通項もあるという意味で似た環境で育ってきたというのもあるし。ほかの人だったら感覚的に伝わらないだろうなという部分も、豪さんには伝わるっていうのがあるんです。

中嶋選手は佐々木健介さん、潮崎選手は小橋建太さんについていましたからね。

中嶋 経験している者同士の共通の意識があると、言葉で説明しなくても理解できるものじゃないですか。それは、今まで組んできたパートナーにはない豪さんだけのものだし。

今年は豪さんと15周年なので
何かやりたいですよね

AXIZを結成してからは、リング外でも一緒に行動することも増えたんですか。

中嶋 巡業先で食事にいったりするようになりました。そこで出るのはプロレスの話ばかりで、AXIZをどうしていきたいかとか先を見据えた会話が多いです。

真面目ですねえ。ご飯食べている時ぐらいは仕事以外の話をすればいいのに。

中嶋 そこは巡業中だからっていうのもあると思うんですけど。そうだ、今年はお互い15周年だから何かしたいよねという話は出ました。でも、もう半年以上が過ぎちゃったんでできるかどうかわからないんですけど。そこは試合としてでなくてもイベントでもいいから、区切りとしてやれたらなと。まあ、豪さんも僕もよくしゃべるんで、話が長くなりそうだけど。

別々のキャリアを積んできながら組んでいる2人がいずれも同じ周年を迎えるというケースもあまりないですから、やった方がいいですよ。潮崎選手は別ブロックにエントリーされているので、お互いの15周年でAXIZ対決を優勝戦で実現できたら言うことないですよね。

中嶋 はい! それが実現したら本当の意味でAXIZが中心であると証明できるんで。

想像しただけで嬉しそうですよ。

中嶋 ニヤニヤしてきちゃいますよ。もちろんどうでもよくはないんですけど、いい意味で勝敗なんてどうでもよくなるシチュエーション。

そのへんの楽しいと思える気持ちが試合にも表れているから、ファンも乗れるんだと思います。

中嶋 ああ、それが伝わればいいなと思っていたんで、嬉しいです。

試合が終わったあとにお互いで寄りかかって支えているところを見たら、そりゃあ伝わりますよ。

中嶋 あれはたまたまだったんですよね。僕が勝った試合の時に「寄っていいよ」みたいな感じになったんで、自然と。それがAXIZのポーズになるという。でも、もたれかかる方は顔が上向いちゃって写らないんですよね。そういうのも含めて新しい風景だと思ってもらえたら。

ノアの新風景を創るのは清宮選手だけではないですからね。ところで中嶋選手は、この1年ほどでカラーが変わりましたよね。不敵な笑みを浮かべながらも非情なる攻めを見せるという。一部では“ノアの怪奇派”と呼ばれています。

中嶋 なんかいろいろと言われているようですけど、気にしていません。どんどん言ってください。

怪奇派と言いふらしているのは私です。

中嶋 ハッハッハッ、いいですよ。中嶋悪彦とも言われていますし。15年目に入ったあたりで、もういいかなと思うところがあって。それまでは表に出るものを意識しすぎる部分があって、そういうのに疲れたというか、そんなのを気にするよりも素のままいって、それでダメならしゃあないかみたいな開き直りというか、もっと軽い感じだったんですけど。そこから本当に自然と「なんで技を受けなきゃいけないのかな?」と思ったんです。プロレスにおける受けの美学はもちろんわかりますよ。だからこそ、その中でよけることが新しい風景になるなら、それもいいんじゃないかって思えたんですね。

確かにノアのスタイルは、鍛え抜かれた肉体で技を受けきった上で勝つのが信条です。

中嶋 今までのノアにはなかったものが、ちょっと視点を変えたところにあったということですね。でも、普段はそこまで考えていなくて素でやっているのがアレです。

ああいう方だったんですか、中嶋選手って。

中嶋 そうです。

15歳の頃から取材してきて、まったく気づきませんでした。騙されていたんでしょうか。

中嶋 騙されていましたね。まあ、キャリアとともにプロレスラー・中嶋勝彦も変化、成長を遂げてきたということです。自分は技をよけまくって、相手を思い切り蹴飛ばせば無傷で勝てる。そういう試合が一つぐらいあってもいいじゃないですか。固定観念を崩すのもプロレスなんですから。

十代でデビューして、さわやかなカラーで来た中嶋勝彦がこういう方向に来るとは、正直予想していなかったです。

中嶋 お客さんも鈴木さんと同じ見方をしているんだと思います。やっててザワつきを感じるというか「何やってんの?」みたいなリアクション。それもライブにおける一つの答えじゃないですか。それを楽しめるようなれたらと思いますよね。技をかわすとブーイングが飛んでくる。反応があることが僕にとっての喜びなんです。

若い頃に佐々木健介さんによって叩き込まれたプロレスを真摯にやってきたのが、15年というキャリアを積んだタイミングでそれに頼ることなく自分の色を築けるようになったのかもしれません。

中嶋 ああ、そういうタイミングだったのかもしれないですね。フリーになった1年後にノアへ入団して、GHCヘビー級のベルトを獲って防衛ロードも歩んだ上での現在なんで、一つひとつの経験を経て今の自分にたどり着けたんだと思います。その時点その時点での自分がどうなるかなんて自分でもわからないものなので、ここからまた変化するかもしれません。今からさわやかな中嶋勝彦に戻るかもしれないですよ。

言われてみれば、潮崎選手は変わらずさわやかですからAXIZって意外とプロレスラーとしては真逆のキャラクターなんですね。

中嶋 お互いに寄せてはいないですよね。でも、思いのほかハマった。スタイルが違うことで被らないというか、やることがケンカしないっていうのはあるでしょうね。

現在のノアは金剛や杉浦軍といったユニットがありますが、AXIZは2人のみでやっていくつもりですか。それともメンバーを増やしてユニット化するのか。

中嶋 2人でもユニットという思いは持っているんですけど、ほかが増えたり減ったりが激しいんで、AXIZはどうしよう?というツィートはしました。ただ、2人の仲を邪魔されたくはないです。

本人たちがそういう思いなら邪魔しませんよ。

中嶋 ちょっと、ヘンなアレで見てませんか? そっちの方じゃないですよ。どんな形であっても、僕はオンリーワンがいいと思っているんです。僕個人もAXIZとしても、そしてプロレスリング・ノアとしても「ここにしかないもの」を一つでも多く生み出していきたい。

丸藤正道選手も「丸藤見たけりゃNOAHに来い」をキャッチフレーズにしています。

中嶋 僕も同じです。中嶋勝彦はノアにいかないと見られないという。唯一無二の蹴り、僕の試合でしか聞こえない音…音さえもオンリーワンでいられたらと思います。

目をつぶっていてもキックの衝撃音を聞けば中嶋勝彦だとわかるような。

中嶋 そうなったら最高ですね。僕の試合で得られる感覚は、中嶋勝彦でしか得られない。そういうものをもっと創っていきたいです。