鈴木健.txt/場外乱闘 番外編

スカパー!公認番組ガイド誌『月刊スカパー!』(ぴあ発行)のスポーツ(バトル)では、サムライTVにて解説を務める鈴木健.txt氏が毎月旬なゲスト選手を招き、インタビュー形式で連載中の「鈴木健.txtの場外乱闘」が掲載されています。現在発売中の2019年4月号には、第63回ゲストとして全日本プロレス・宮原健斗が登場。誌面では惜しくも載せられなかった部分を含めて大公開!!

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宮原健斗(全日本プロレス)x鈴木健.txt 場外乱闘 番外編

どの競技のスター選手も、
人に影響を与える言葉を
出しているじゃないですか

宮原健斗(全日本プロレス)

©全日本プロレス/FIGHTING TV サムライ/カメラマン:中原義史

棚橋さんとは同世代でないから
ハッピーに終わらせることができた

先日、ジャイアント馬場さん没20年追善興行に出場しました。普段の全日本プロレスとは違った風景の中に身を置いたわけですが。

宮原 僕の中では、宮原健斗を普段見たことのない人や久しぶりにプロレスを見に来た人たちを取り込むことが一番のテーマだったので、そこを意識して試合に臨んだんですけど、普段通りのものを見せようと心がけていましたね。

多くのレジェンドの皆さんや他団体の選手たちと同じ空間にいて感じたことは?

宮原 俺はメインイベンターだなって、改めて感じましたよ。ほかの試合も見られる時は見ていましたけど、想定内でした。やっぱり自分がメインじゃないと締まらないだろって。三冠チャンピオンだから、当然です。

三冠といえば3本の旧ベルトも巻いてきました。

宮原 じつはあれ、馬場家から巻いてくれと言われたものだったんです。僕としてはやっぱり今を見せようと思っていたんで、今の三冠ヘビー級のベルトを巻くべきだというつもりだったんですけど、当日言われてどう全部巻いたらいいかと考えました。

6冠王時代の武藤敬司さんのように、体中に3本巻いて現在のベルトは手で持ってきましたが、馬場家から託されたことになるわけですね。

宮原 そうですね。ああいう形で出させていただいてSNSとかを見ても皆さんが喜んでくださっているから、これでよかったんだなと思いました。あとになって考えると、一生に一度の経験をさせてもらったなって。

宮原選手が初めて三冠王座を奪取した時は、すでに一本化された現在のベルトでしたからね。

宮原 だからインターナショナルヘビー級、PWFヘビー級、UNヘビー級のベルトを巻いたのは初めてでした。(佐々木)健介さんの付き人をやっている時に手入れしていましたけど。

新日本プロレスの棚橋弘至選手との初遭遇が注目される中、入場の時点で目を引くという意味でも現在の三冠ベルトも含む4本を携えてきたのはよかったのだと思います。

宮原 そうですよね。棚橋さんはやっぱりリスペクトに値する唯一の選手でした。

唯一ですか。

宮原 プロレス界で唯一。この世界、自分のことだけ考えているやつばっかじゃないですか、僕もそうですけど。その中でも僕がこれから歩もうとしている道の先頭を歩いている人なんで、その背中を追いたいと感じた一日でした。

一度限りにするのはもったいないなと、見ていて思いました。

宮原 そうですよね。でも、世代が一回り違いますからね。だからライバル心がないところがいいんだと思います。これが同世代だったらああいう形にはならなかったと思います。

棚橋さんは若く見えるから、そんなに離れているようには思えないんですけど、じつは12歳離れているんですよね。

宮原 棚橋さんだったから、ああいうハッピーな感じで終わらせることができたんです。僕は常に全日本の会場でハッピーに終わらせることを心がけてやっていますけど、それが棚橋さんの明るさで2倍3倍になるという。

締めのマイクがまた、息が合っていました。

宮原 いや、さすがだなと思いましたよ。無茶振りに対してもコンマ何秒の違いもない最高のタイミングでの掛け合いになったのを映像で見て、その場の臨機応変さ、直観力がすごい人だなって。あれは盗みたいなと思いました。

棚橋さん以外にも盗むべきものが点在していた一日だったのでは。

宮原 レジェンドの皆さんの入場曲がかかった瞬間に沸くのって、あれこそがプロレスにおけるてっぺんですから。あれもプロレスのスタイルだと僕は思っていて、目指すべきところですよね。

さてチャンピオン・カーニバルなんですが、意外なことに宮原健斗は優勝経験がないんですよね。

宮原 去年、初めて優勝戦に出たぐらいですからねえ。

なぜなんですか? 全日本七不思議のひとつですよ。

宮原 なんでですかね、やはりチャンピオンはマークされるからなのか。

マークされているというのは、じっさいに感じるものなんですか。

宮原 一年でもっともみんながオイシイところを持っていってやると思っているのは感じますね。ここで優勝するのとしないのとでは人生変わりますから。そういう人たちが集まった大会だけに、肉体的にも精神的にもタフになりますよ。

考えてみれば、宮原選手が三冠王者の時にカーニバルの時期が訪れるんですよね。去年もそうでしたし。

宮原 そうなんですよ! チャンピオンとして優勝するというシチュエーションが宿命づけられてしまっている。

三冠王者は優勝できないという見方を覆せとプロレスの神様が言っているのかもしれません。

宮原 それぐらいのインパクトがないと(プロレス大賞の)MVPを獲れないですからね。今年は狙っているんで。ただでさえカーニバル開催中は普段以上にナーバスになります。

同じAブロックを見渡すと大日本プロレスの岡林裕二選手がエントリーされ、4・25後楽園で公式戦が組まれています。

宮原 タッグでちょっと触れたぐらいでシングルは一度もないです。それだけに楽しみであり、想像がつかない一戦であり。関本(大介)さんよりも気が強いというか、トンガっているイメージがあります。どんな人なんですか?

重い物を持つのが好きな方ですね。トレーニングとしてやるというよりも。

宮原 へえー、それはちょっと変態ですね。

変態でしょうね、いい意味で。

宮原 僕は常識人なんで。プロレスラーの変わり者は苦手なんですよ。独特な人っているじゃないですか。

今の全日本プロレスは独特の人たちばかりじゃないですか。大巨人だったり暴走したり、口から毒霧を吐いたり。

宮原 渕正信さんもいるし。そういう中だからこそ、正統派として社会受けが一番いいポジションを担っているんです。

我こそが正統派だと。

宮原 そうじゃないと広がっていかないですから。時代は変わっているんですよ。

時代の移り変わりといえば、今回のカーニバルは秋山準選手、大森隆男選手のベテランが参加せず、新顔が増えました。

宮原 だから読めない部分がけっこうありますよね。外国人も増えたし。そこはやりづらい部分もありますけど、僕はこう見えて研究するタイプなんで。やると決まったらちゃんと映像で見るようにしていますから。

予習をするタイプなんですね。

宮原 イメージをするにあたって、映像で見るのと見ないのとでは全然違います。向こう側のブロックの選手も含めて初対戦となる場合は全部見ます。

ドラゴンゲートから参戦する吉田隆司選手も。

宮原 ええ。当日を迎える前からやることがいっぱいあるんで、僕は試合よりむしろ試合前の方がエネルギーを使うんです。三冠戦もそうですけど、ナーバスな期間が続く時はそうですね。カーニバルはそれがずーっと続くんですから、過酷ですよ。

考えすぎるのもよくないですが、何もやらないのもまずいですよね。

宮原 僕はやっておかないといい試合ができないタイプです。昔から、こうと決めたジャンルに関してはそうでした。

勉強の方は?

宮原 中学まではやっていました。中学の時の偏差値は58だから、けっこう高かったんですよ。高校に入ってからはプロレスラーを目指すために柔道を始めちゃったんで、授業中はおやすみタイムになっちゃったんですけど、それまではちゃんと予習をやって試験に臨んでいましたね。

それが今、こうやってプロレスラーになっても生かされているとは。

宮原 チャンピオン・カーニバルが近づくとそれを毎年やっているという。

早送りされるようなプロレスラー
にはなりたくないと思っていた

それでも優勝できないなんて、厳しい世界です。

宮原 優勝もそうなんですけど、僕は今回のカーニバルで全日本を新時代に持っていきたいと思っているんです。そのためにはジェイク・リー、野村直矢、青柳雄馬にも頑張ってもらって、僕を含む4人で優勝争いをする年だと思っているんで。今、どこへいっても「宮原選手の同世代のライバルがほしいですよね」って言われるんですよ。

言われてみれば、これまでの宮原選手は常に自分より上の世代の人の中に混ざって、当たり前のように実績をあげてきています。

宮原 僕も30歳になったんですけど、世代的には二十代の選手たちに近い。その中で言うなら僕が一人勝ち状態になっているじゃないですか。それを今年のカーニバルで変えたい…いや、変えなきゃいけないと思っているんで。

その意味では、野村選手が自分の意志で三冠王座に挑戦してきたのは願ったりかなったりだったのでは。

宮原 そうですね。そこまでは僕も「待っていた!」って言いましたけど、ここからは敵にした宮原健斗がどういうものなのかを知ってもらいます。“持っていく”とはどういうことなのか。今までだったら僕が8割盛り上げて、できあがっている状態を作った中で彼らが「イエーッ!」とかやれば盛り上がっていたわけです。そこに気づくんだと思います。1から8に持っていくのが難しいんであって。

まだ、現在のように入場時の「ケント」コールが浸透する前から、そういう風景を描きたいと言っていましたよね。それだけに、よくぞここまで創りあげたなと思います。

宮原 最初は全然定着しなかったですよね。新日本プロレスのお客さんは自分から楽しもうとしているイメージがあったのに対し、あの頃の全日本プロレスのお客さんは受け身のイメージがあったんです。だから僕は「ケント」コールを叫んでもらって、そういう風景を変えようと思った。それにはこちらが声を出しやすいように持っていかなければならないと思って「ケント」コールをしてくれよって訴えたんです。

じっさいに会場の雰囲気は変わりました。

宮原 特にこの1、2年で感じられるようになりました。それまでは全日本のチャンピオンってダサい感じがするなって思っていたんです。それじゃ見る側も受け身になるだろうって。

ダサい感じですか。

宮原 諏訪魔選手とか。なんかもっさりした感があるじゃないですか。大きいからというのもあるだろうけど、やり方次第ですよ。第一印象がプロは大事ですからね。ファン時代、もっさりした選手が出てきたら(ビデオを)早送りしていましたから、ファンの人たちの気持ちがわかりますよ。早送りされるようなプロレスラーにはなりたくないと思って。

それで入場シーンも徐々にメリハリがつけられていったんですね。

宮原 プロレスラーは7割ぐらいが入場ですよ。昔の映像を見ると、ちゃんと進化しているのがわかります。前は入場してくる時の表情も特になかったんです。でも、アメリカのプロレスを見ていたら、入場の時点ですごく表情のある選手が多い。そこに気づいた時、現場はともかくとして画面を通して見ている人たちに俺は何も与えられていないんだなと思ったんです。そこからです、入場から表情で魅せなければと思ったのは。そこから少しずつ変化していって、今の形になった。曲を自分でストップさせるのも今までなかったじゃないですか。あれもある日突然、降りてきたんです。表情にしてもアクションにしても、自分でやりすぎだなと思うのが10だとしたら、人に伝わると6ぐらいになっていると思うんですよね。それを意識するうちに今のような形になって、これからも変わっていくんだと思います。

20分、30分の試合をやったあともマイクが帰らせてくれなくて、リングへ戻ってきてしまいますよね。

宮原 天性の欲しがり屋なんで、帰ってこいと言われるとダメですね。でも、そこでも「ケント」コールをしてくれるようになった。そこは嬉しいですよね。だからああいうのって、ファンのみんなと創りあげていくものなんだなって本当に思いますよ。

激闘で疲れ果てて、早く控室へ戻ってひっくり返りたいと思わないんですか。

宮原 思わないですね。そんなプロレスラーがいたら何考えてんだって思いますよ。今のアスリートはしゃべりも含めて試合です。どのスポーツでもトップの選手たちは試合後にもちゃんと自分の気持ちを語って伝えるじゃないですか。

他のスポーツにもアンテナを張っているんですね。

宮原 フィギュアスケートとかを見ても、ただその競技をやっているだけじゃなくてエンターテインメント性を高めているなと思います。どのスター選手も、人に影響を与える言葉を出しているじゃないですか。プロレスもそうならなければならないって思いますよね。僕も人に影響を与えられるようになりたいです。

そこも含め、世間に向けての自分自身の浸透度はどれぐらいに感じていますか。

宮原 いやー、まだまだですよ。100のうち3ぐらい。普通に街を歩けますから。歩けなくなるぐらいになりたいんですよね。

それはそれで大変ですよ。

宮原 それは言われますけど、この仕事をしているのであれば有名ならなければならないですから。プロレスファンに届くのは当たり前として、それ以外にも届かなければ有名とは言えないですよ。僕はまだ、プロレスファンにさえ届ききっていないと思っているんで。この前の両国(追善興行)で新たな反応があったということは、宮原健斗を知らない人が多いんですよ。そういうことに関しては真摯に受け止めるし、自分のことを過大評価もしないです。だから満足したことがないんですよね。(2・24)横浜文体も2階の方は空いていましたから。何かのせいにするのは簡単だけど、それはチャンピオンに魅力が足りないということなんですよね。

責任を感じてしまう。

宮原 だけど、あと97分の楽しみが待っていますから。僕はプロモーションで地方にいったりすることを「地上戦」と呼んでいるんです。テレビは空中戦。握手した分だけ得られるものがある。それをガンガンやっていきたい。

オフ中もほとんどプロモーション活動に費やしていますよね。

宮原 詰め込むんですよ。ゴールデンタイムで放送していれば別ですけど、動かないことには広がっていかないですから。積極的にプロモーション活動をやっているっていうのも、いく先々で言われるようになったんですけど、そういうイメージを持たれているということは少しずつ変わってきているんだなって思います。

それが全日本全体に広がれば…。

宮原 僕は自分一人で満員にするつもりでやっていますけどね。それぐらい圧倒的な存在になるよう、棚橋さんを見習って一人で埋められるようにならないと。

棚橋さんも宮原選手も、団体が落ち込んでいる頃の風景を見てきた上で今を築いています。

宮原 あの頃頑張っていた効果が今に出ているんでしょうね。だから、今頑張っていることは何年か先になって形になるんだなと。すぐに成果を肌で感じられずとも、そのつもりでやっていかなければならないことですから。

前向きですね。

宮原 そういうふうに自分を仕向けているんですよ。一人になると、けっこうヘコむタイプです。

まったくそうは見えないですよ。

宮原 いい試合できなかったり、客席が空いていたりすると、もう…。マイクをやっている時に帰られるとツラいッすよねえ。「自分に魅力があれば帰らないのに…」って思っちゃって。そこは復習もして…あ、でも復讐は一日だけ。それを引きずるとファンの皆さんに失礼なんで。

予習はしっかり、復習もちゃんとやると。

宮原 学生だったら優等生ですよ。