鈴木健.txt/場外乱闘 番外編

スカパー!公認番組ガイド誌『月刊スカパー!』(ぴあ発行)のスポーツ(バトル)では、サムライTVにて解説を務める鈴木健.txt氏が毎月旬なゲスト選手を招き、インタビュー形式で連載中の「鈴木健.txt/場外乱闘」が掲載されています。現在発売中の2017年4月号には、第41回ゲストとして大日本プロレス・植木嵩行選手が登場。誌面では惜しくも載せられなかった部分を含めて大公開!!

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植木嵩行(大日本プロレス)x鈴木健.txt 場外乱闘 番外編

あの頃の自分のようにデスマッチをやりたいと思うきっかけを与えられる人間になりたい

植木嵩行(大日本プロレス)

©大日本プロレス/FIGHTING TV サムライ/カメラマン:中原義史

衝撃のスタンディングKOは
恥ずかしさと悔しさしかなかった

ーさっそくですが、1月に上野の野外会場でポセイドンマッチをおこなった直後にインフルエンザにかかってしまいましたが。

植木 あうっ…いきなりその話ですか。じつはそれが原因だったのかわからないんです。私も一応、予防接種は受けていまして、かからないだろうなと思っていたんです。それがインフルエンザと診断された当日、大橋さん(フランク篤レフェリー)が具合悪いと。実は私もこう見えて大日本プロレス一、病弱なレスラーでして。

ーそうは見えないですよ。

植木 いえ、マック竹田レフェリーと1、2位を争うほどに体が弱いんです。基本的にいとも簡単に風邪をひきます。巡業バスに乗るとまずノドを痛め、私からみんなに広がっていくという。

ー迷惑ですね。

植木 はい、迷惑なんですよ、まったくもう。感染力に関しては誰にも負ける気がしません。なもんで自分も予防接種をしているとはいえちょっと怖いなと思い、熱もなくノドも痛くはなかったのですが病院にいったんです。そうしたら「ああ、インフルエンザA型ですね」とフツーに言われて、固まってしまいました。逆に大橋さんの方はただの風邪ですねと言われたという。

ーということは、病原はフランクさんではなかったのでは。

植木 そうなります。私がかかったあとアブドーラ・小林さん、佐久田(俊行)、さらにほかの選手にもまわったという。ただ、ポセイドンの影響なのかどうかはじっさいのところわからないんです。

ーでも、ほかにきっかけはないんですよね。

植木 ……ないんですよねえ。まあ、私の口からはあれが原因だとは言えません。

ーそこは前職(神奈川県警所属警察官)を生かして捜査してくださいよ。

植木 いやあ、警察は民事不介入ですから。ま、治ったことですし、ポセイドンのように水に流すということで。

ーあ、うまい。それにしてもプロレスラーの方は1月の気温6℃の野外で氷水の中にドボンしたり水をぶっかけ合ったりして、なぜ大丈夫なんですか。

植木 私はどちらかというと毛深いプロレスラーの代表格なんですけど、水を浴びて湿った胸毛で長時間はいられないですね。毛が水を浴びて外気温で水が蒸発し熱が逃げるので、一番体が冷えやすいタイプでして、お腹のラインにも毛が生えている都合でよくお腹を壊します。小林さんや岡林(裕二)さんのような通称・オシャレ坊主の方は私と比較すると毛の生えている面積が小さいじゃないですか。普通に寒空で外に出ても体から熱が発せられているので、湯気が出ているんです。だから毛がない方が熱を逃がしにくいんじゃないかというのが私の捜査結果なんです。

ー北極のシロクマや南極のペンギンは体毛によって凄まじい寒さを凌いでいるわけですが、そういった動物学的なものとは真逆だと。

植木 人間は弱点をさらすことによって気持ちを高ぶらせて守っているのではないかと。言うなれば“心頭滅却すれば火もまた涼し”というように、水もまた温かしと言ったところでしょうか。

ー大日本のデスマッチファイターはあんなことまでやらなければいけないのかと思うと、厳しい世界だなと痛感させられます。

植木 ポセイドンは過酷ではありますけれども、お客さんも参加できるものであり…。

ー参加というよりも巻き込まれているのでは。

植木 そういう言い方もありますが、そこはお客さんの判断で。

ー警察が市民を巻き添えにしてもいいんですか。

植木 そこは市民一人ひとりが防犯活動に協力しようという意識の問題になってまいりますので、はい。私の方からも気をつけていただくよう、呼びかける所存でございます。

ーわかりました。それで今回の「一騎当千」なんですが、一昨年の前回大会に続き2度目のエントリーとなります。初めてシングルでデスマッチの連戦を経験したわけですが。

植木 デビューして9ヵ月で初めてデスマッチを経験したんですが、シングルはあまりやっていない段階だったので、それまでに培ったものでやるしかなかったんです。それで、敬礼を採り入れたり、正義の心を駆使したりしてデスマッチに臨みました。正直、一杯いっぱいでただやっているうちに終わってしまったという思いしか残らなかったですね。

ーデスマッチファイターとして何かを残したという感触がつかめなかったと。

植木 おっしゃる通りです。何も生み出せなかったです。正義の心を持って闘ったことで平成極道コンビの稲葉(雅人)さんには勝てたんですけど、その1勝のみでした。無我夢中、一心不乱にとにかく相手を逮捕することだけを考えてやった結果の一勝ではあったんですが。

ーやはり同じデスマッチでもタッグや6人タッグではなくシングルとなると違うものなんでしょうね。

植木 まず国家権力には頼れないですし、タッグを組んで助けてくれる人もいない。本当に己の力のみでなんとかしなければならないという意味では違うものでした。あとは、普段のシリーズもデスマッチの連戦はおこなっているのですが、シングルが続くと傷の治りが遅くなりました。とにかく思っていたことができずに終わったという点で、悔いが残った前回の一騎当千でした。

ー思っていたことというのは?

植木 私が初めて見たデスマッチが宮本裕向さんと小林さんの建築現場デスマッチだったんですけど、お二人が建築現場(の足場)の上から飛んだのがすごくきれいで、こういのがやりたいという思いで大日本に入ったんです。なのに、そういうイメージをしたものをやろうとしてもできなかったと。マイナス面しかなかったですね、リーグ戦中は。自分はデスマッチに向いていないのだろうかとか、本当にこれが自分のやりたかったことなのだろうかとか、葛藤の中で続けていた感じでした。

ーそういう時は先輩たちにどうしたらよくなるか聞いたりはしないんですか。

植木 自分は自己解決派なので、相談することはなかったです。でも結局、答えは出せませんでした。だからこそ今回、2度目の一騎当千では自分なりの答えを出さなければいけないのだと。私、2015年の1月4日に伊東竜二さんと一騎打ちでやらせていただいたんですが、立ったまま失神してしまいまして。

ーありました。エルボーが入って、スタンドの状態でKO負けするという壮絶な一戦でした。

植木 それで、その1年後の同じ1月4日、同じ新木場1stRINGで伊東さんとの一騎打ちが組まれたんです。その時も勝てなかったんですが最後まで試合をすることができたんですけど、試合後に伊東さんから「おまえはバラモンとお笑いの試合もやってデスマッチもやっているけど、どっちに進むつもりでいるんだ?」と聞かれまして。要はどっちが自分にとっても本道なのかという問いかけだったと思うんですけど、その試合でデスマッチは楽しいという感情が芽生えていたので「両方です! どっちもやります!!」と答えたんです。デスマッチとファニーだけでもなく、ストロングBJもポセイドンも全部やってこそ植木嵩行だと思っておりますので、そう思うきっかけとなったのが伊東さんとのデスマッチだったと。あそこからデスマッチが楽しくなってきたんですね。

ー具体的にどんなところが楽しく感じるんですか。

植木 何をやろうかとか、何を使おうかとかを考えるのも楽しいですし、もちろん使い方も考えますし。そしてじっさいにそれができた時が心から楽しいと思えるようになったんです。できなくても前のように落ち込むんじゃなく「クッソー! じゃあ次は絶対成功させてやる」と前向きにいられるようになりました。

ー日常の中でそういうことを常に考えているんですか。

植木 はい、昨日も家に帰るまで動画サイトを見たり。たまに電車の中で見ていて、横へいる人にチラリと見られてまずいなと思うこともありますけど。血まみれの動画を見ているのがいるんだけど、通報した方がいいかなと思われていまいかと。

ー元警官が通報されたらシャレにならないですよ。植木選手はデスマッチと同時にバラモン兄弟との絡みで楽しいプロレスの方でも台頭してきたじゃないですか。そちらは楽しいと思ってやっていたんですか。

植木 そちらの方は勢いと申しますか…頭のネジを一個外した状態でやっていたようなものなので。初めてやったのがテレビとラダーとイスを使ったTLCマッチだったんです。

ーTLCって通常は“T”がテーブルですよね。

植木 そうなんですが、その時はテーブルではなくテレビだったんです。言うなればデスマッチ仮デビューみたいな試合だったんですが、そのテレビは道場にあったもので、それを使って攻撃したら当然画面が割れたんですけど、その中からゴキブリがワサワサワサと出てきまして。

ーえーっ!? それってバラモン兄弟が仕込んだわけではないんですよね。

植木 えー、まー、なんと申しますか…我が道場に棲息していたと言いますか。名古屋のダイアモンドホールだったんですけど、お客さんが悲鳴をあげて引きました。今思うと、あれはスカパー!さんも映るテレビを粗末にしてはいけないという、テレビの神様からの教えだったんだと思います。

ーテレビの神様っているんですか。

植木 その試合に関しては頭真っ白、ピヨピヨピヨ状態でしたけどバラモン兄弟絡みは楽しめました。だからこそ、そこを伊東さんに突かれたんだと思います。そっちばかり楽しそうにやっていて、ちゃんとしたデスマッチがおまえにできるのかという。確かに自分でも甘えがあったから、最初の一騎打ちであのような形になってしまったんだと今では思います。

ー見る側からすればスタンド状態で失神するというのはインパクトがあったわけですが、本人としてはそんなポジティブには考えられなかったでしょうね。

植木 プロレスラーは勝っても負けてもお客さんに納得していただく形で試合を終わらせなければならないと思っております。あの終わり方は、中途半端に試合が終わってしまった形じゃないですか。「えっ、これで終わりなの?」と思わせてしまうのが一番ダメなんです。もしかすると負けることよりよくないのかもしれない。控室でドクターが「ああ、もう少しで意識を戻しますね」と言っている声が聞こえてきて目が覚めたんですけど、自分がなんでここにいるのかわからない。それで周りが「もう大丈夫だから、寝てろ」みたいに言ってくれたところで何があったのかを把握した瞬間、泣きましたね。その試合が「壮絶失神KO!」みたいな形で週プロさんとかにもとりあげていただいたんですけど、私的にはもう、恥ずかしさしかなかったです。3ページ載ったから嬉しいなんてまったく思えなくて、自分の弱さをバーン!と出してしまった恥と悔しさですよね。

ー胸毛にオイルを塗って相手の顔に付着させる行為よりも、こちらの方が恥ずかしいと思ったんですね。

植木 バラモン兄弟と組む時は本当になんでもやってやろうという姿勢で臨んでおりますので、それに関しては中途半端な気持ちではないと自分でも言えるんです。相手の方が面白いことをやったらやられた!と悔しいですし。

ーまあ、グレート小鹿さんには勝てないですよね。

植木 年季が違いますからね。天国と契約を結んでいるのではと思えるぐらいに神懸かっているのでど肝を抜かれます。あの面白さは片足を突っ込んだ人間でなければ出せませんよ…いや、ここはちょっとカットしておいてください。

人間は“出す”のが快感…
血を流すのも気持ちがいい

ーそうした経験を積んだ上で臨むだけに、今回の一騎当千は実績が求められます。

植木 もちろんそれは私もわかっておりますが、前回と一番違うのは私自身が楽しみで仕方がない。自分に自信がついてまいりました!(ドヤ顔)

ー自信というのはたいがい自分につくものですよ。

植木 楽しんでなおかつ勝ってやると。今のデスマッチ界の強い人たちは伊東さん、小林さん、FREEDOMSの葛西純さんも一騎当千に出る竹田誠志さんも皆さん、楽しんでいるんですよね。楽しんでいるからこそ強い。だから私も楽しめれば勝てるのだと。楽しいことって続くんです。つまらないことって継続しないじゃないですか。今は一騎当千に出るにあたって楽しみで仕方がないし、あの…。

ー……。

植木 ……。

ー……。

植木 ……あの、ちょっと考えていたことがあったんですけど…浮かんでこない。

ーえー…。

植木 これだけは言おうと思っていたことを用意していたのに、出てこないじゃないですか!

ーこちらに言われてもどうすることもできませんよ。

植木 いやあ、喋っているうちに楽しくなってきちゃって思い出せない。すいません、楽しすぎるのもよくないですね。最近は、血を流すだけでも楽しくて仕方がないんで。

ー血を流すことが楽しいとはどういう感覚なのでしょう。

植木 人間って、出すという欲求が凄まじいじゃないですか。たぶん食欲や睡眠欲よりも優先されるものであって、どんなにお腹がすいていても生理現象が起きたら出さずにはいられないし、寝ていても起きてしまう。涙を流すと気が晴れたりするし、痰が詰まったら出せばノドがすっきりする。出す! 何よりも出す! 出すことによって人間は快感を得られるんです。血も出せば気持ちいいんです。

ーそれは俗に言われる「血を流すと興奮する」とはまた違ったものなんですか。

植木 うーん、興奮すると血が出ちゃうという感覚ですし、反対に出ると興奮もしますのでまったく別ではないと思います。なんでも溜めるのはよくないです。

ーということは、デスマッチで血を流しているからといって不利とはかぎらないんですね?

植木 不利とはかぎらないです! 血を出した方が、アドレナリンが…アドレナリンも、これすなわち…出すんですよね(ニタリ)。

ーなんでそんな嬉しそうな顔をするんですか。

植木 出た方が強くなるんですよ。むしろ血を出さないと調子が悪い。まあ、出血多量で貧血になってしまったら本末転倒ですが。

ー傷口を攻められるデメリットもあります。

植木 私は「もっと攻めて!」となります。

ー「もっと責めて!」ではなく。

植木 その方が出せるんで。

ーそういうことから“3代目血みどろブラザーズ”を名乗っているんですか。

植木 そうですね、高橋(匡哉)さんと私はどちらかというとボコボコにされながらも男臭くかつイカ臭く返すところから高橋さんがこの名前でいこうと言いまして…じつは私、血みどろブラザーズをまったく知りませんでした。

ー2代目血みどろブラザーズは植木選手の先輩(中牧昭二&山川竜司)ですよ。

植木 いやー、不肖ながら知らなくて山川さんがやっていたと聞いてそうだったのかと。でも、血みどろブラザーズとしてやり続けることで個々の力も伸びているという実感があります。

ー血みどろが前提というのもすごい話ですよね。

植木 そうですよね、相手ではなく自分たちが血みどろという意味でのネーミングですものね。でも私だけでなく高橋さんも血が出た方が元気になるタイプなので、ピッタリのチーム名です。

ー一騎当千の先には、デスマッチファイターであるからにはBJW認定デスマッチヘビー級王座を目指さなくてはならないですよね。

植木 今、小林さんが持っていますけど、一騎当千に出場しない(王者としてシード権を主張)ということで大丈夫なのかなと思います。小林さん以外のデスマッチファイターは、公式戦の中で互いが互いを高め合うと思います。その中で小林さんだけのうのうとしている。優勝者はベルトに挑戦できると思いますけど、それでリーグ戦が挑戦者決定戦だなんていうのはおかしな話であって、高め合った者たちの中から優勝者が出て挑戦したら、おそらく小林さんは守りきれないでしょう。小林さんが一騎当千に出ないことで私はベルトの価値が下がったと思っています。それを一騎当千に優勝したデスマッチファイターが元に戻すというか、価値を上げる。みんな、その意気込みでやっていると思うので、私も優勝を狙ってその先にあるデスマッチヘビーを獲るために闘います。このリーグ戦で楽しむ力を高められれば獲れると思います。私は過去に一度もデスマッチヘビーに挑戦したことがないので、初めての挑戦で獲ったら面白くないですか?

ー衝撃的ですし、誰もがあっと驚くでしょう。二階級特進ですよ。

植木 二階級どころか四階級特進ですよ。警視総監賞クラス。

ー先ほどいろいろ考えるのが楽しいと言われていましたが、いつかやってみたいデスマッチ形式や使いたいアイテムはあるんですか。

植木 新しいアイデアではないですけど、自分をデスマッチに導いてくれた建設現場デスマッチはやってみたいですね。それも宮本さんと。おそらく私が入門してからは一度もやっていないんで。それ以外でも新しいものは考えていますが、情報を漏えいさせると内部問題に発展しますので。機密事項には守秘義務がございます。

ー警察をやめてまでしてデスマッチをやるようになって一番よかったと思えることはなんでしょう。

植木 ……私生活ではほぼほぼないですね。行く先々で傷だらけの体を見ると「何この人?」という目で見られますし。私の収入の4割を使う分野がありまして、そこにグッズ代とかも付随してくるんですが、なんとかやりくりしてでも…というのが楽しみなぐらいで、趣味らしい趣味もないので…DVD観賞ぐらいですかね(ポケットからスマホが落ちる)。

ー何さっきから慌てて何度もスマホを落としているんですか。

植木 いやいやいや! DVD観賞はあらゆるジャンルのですよ。そんな感じなんで、よかったことはと質疑されたらそれはもう、大好きなデスマッチができることに尽きるわけです。その上で大日本のトップに立って感動させられるようなデスマッチをやれば、あの頃の私のようにやってみたいと思うきっかけを与えられる人間になれると思うんです。そうすれば新しい発想を持った人間が出てきて、デスマッチが発展していくじゃないですか。

ー最後はいい話になりました。

植木 ありがとうございます! あーっ!?(敬礼するやスマホがポケットから落ちる)