スカパー!公認番組ガイド誌『月刊スカパー!』(ぴあ株式会社発行)では、毎月旬なゲスト選手が語る「鈴木健.txtの場外乱闘」が連載されています。現在発売中の2025年9月号では、第134回(本誌ナンバリング)ゲストとしてDDTプロレスリングのMAO選手が登場。誌面では惜しくも載せられなかった部分を含めて大公開!!
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一見、突拍子がないかもしれないですけど
自分なりには意味があるつもりでやっています
MAO(DDTプロレスリング)

こだわりを持っているからこその
UNIVERSAL戦線ウォッチャー
今年の「WRESTLE PETER PAN」(8・30ひがしんアリーナ&8・31後楽園ホール)は、KANON選手とのSTRANGE LOVE CONNECTION始動後初のビッグマッチということから二人でKO-Dタッグ王座を狙ってくると予想していました。タッグチーム始動の中でシングル王座のDDT UNIVERSAL王座に挑戦する(8・31後楽園)というのはちょっと意表を突かれた気もします。
MAO もともとKANONと組み始めてからいきなりタッグのタイトルを狙うぞ!っていうテンション感がまったくなかったんです。というのもKANON自身、まだまだ成長しなきゃいけないし、僕に追いつきたいっていう気持ちがすごくあるみたいで、僕の方もそんなKANONをもっと引き上げたい気持ちがあるという意味で、まだまだ模索中なんですね。KANONは今年のKING OF DDT(シングルトーナメント)で準優勝して、僕は去年優勝しているから個々の力でもやっていけるけど、タッグチームとしては僕が今までやってきたチームと比べるとまだまだ未熟だと思うんで、タッグタイトルを狙えるかどうか今のところは見えていない。
見ている限りはいい感じでやっているようにしか映っていないですが。
MAO でも、やっぱり本当に細かいところの阿吽の呼吸みたいなところでいったらマイク・ベイリーや(勝俣)瞬馬と組んだ時のレベルにはいっていないんです。だから、そのレベルに達した時はタイトルを狙うってなるだろうけど、今のSTRANGE LOVE CONNECTIONはベルトを獲ってやるぜ!みたいなモチベーションでやっているんじゃなくて。最初から完成されたものを求められるとは思うんですけど、僕たちはバンドで言ったらデモテープを作った段階。完成度的にはいいデモだけど、アルバムはまだリリースしていない。そういう段階だと思っています。
客観的に見ることができているんですね。
MAO 自分たちのチームに関しては僕、めっちゃ客観的です。その中でシングルの方を狙うことになったんですけど、あれはけっこう僕も衝動的に動いちゃった部分で。
7・13後楽園で鈴木みのる選手が青木真也選手に勝ってUNIVERSAL王座を防衛した直後に挑戦の名乗りをあげました。
MAO 僕は青木真也が勝つと思っていたんです。それで、青木真也が獲れなかったらもう誰がいっても無理じゃん。誰がいるんだよ?って想像したら「あ、俺だわ」となって飛び出しました。
そこで自分の顔が浮かんでくるものなんですね。
MAO なりましたねえ。誰もいない→俺がいた!のパワーというか、それが衝動となって気づいたら自分を動かしていたような。
KANON選手は置いていかれたと思ったかもしれません。
MAO いや、大丈夫です。そこは僕ら、どこ(のユニット)よりもコミュニケーションとっていますから。会場入りから出るまで、試合も入場直前まで。控室では(MCのKIMIHIKO含め)3人で固まっていますからね。今年の夏は絶対に3人で東京サマーランドへいくって決めているんで。
あそこで自分だと思えた根拠はなんだったんでしょう。
MAO 僕が過去にUNIVERSALを持っていた時って、対戦相手の条件として自分が負けても納得できる相手だったらベルトを懸けてやるというのがあったんです。鈴木さんが上野勇希から獲って、ヨシヒコ、男色ディーノ、青木真也から防衛した。この4人はまさに、自分が負けてUNIVERSALを獲られても悔しくないというか、すっきりとベルトを渡してもいいって思える相手です。
ヨシヒコ選手も。
MAO ヨシヒコなんて、UNIVERSALを持たれたらもうかないっこないじゃないですか。そういう相手としか試合をしたくないっていうのがチャンピオン時代の僕のモチベーションだったんです。それで青木真也が負けたのを見た時になんというか、ほかの誰かにUNIVERSALを巻かれたくないって思ったんです。確かに鈴木みのるという人は僕の思う海外での防衛戦を含めてUNIVERSALの自由という定義をめっちゃ果たしている人。ただ、このまま何回も防衛を続ける限りは誰かに獲られるリスクもあるわけで。そうなった時、誰にも獲られたくない。ならば今のDDTにいる人間の中でと思って、それは自分だよなってなりました。
UNIVERSALのベルトは自分のところにあるべきという認識ですか。
MAO はい。僕があのタイトルの定義を作り上げた、本来の姿に戻せたという思いはあります。あのベルトはコロナ禍のちょっと前にできたもので、海外戦略用のタイトルでしたよね。
海外で防衛戦、外国人選手の挑戦を前提として設立されたタイトルでした。
MAO それがコロナ禍に入って、渡航が難しくなり本来の意義を失っていた。これはプロレス界あるあるですけど、KO-D無差別級があるとその下と見られてしまう。IWGPの下にNEVERって見られてしまうものじゃないですか。ベルトの存在意義自体が難しくなり、だったら無差別級でいいんじゃね?っていう人もいた。だから僕は、UNIVERSALのベルトを獲って、ベルト本来の意味を考えて動いていたんです。
手放しても、その意識が今も残っていると。
MAO そうですね。去年、シアトルで防衛戦をやった時(2024年11月9日)、山下実優(東京女子プロレス)とマイク・ベイリーとの3WAYマッチで。シアトルでタイトルマッチができるだけでもすごい意味があるのに、山下実優がいるという。やっぱり伊藤麻希と山下実優なんですよ、海外での認知度がすごいのは。そんな海外でやっている山下にベルトが移って、それでよかったって思えたんです。
山下がベイリーに勝って、自分が負けずしてベルトが移動しました。こういうベルトとの別れ方をして、もう縁がなくなったなとはならなかったんですか。
MAO しばらくはもういいやと思って、僕はあのまま海外に流出しちゃうのかなと思って行く末を見守っていたら、DDTに帰ってきちゃった。それで鈴木さんが獲った時に、これはすごいことになったぞ。僕の中では一番UNIVERSALな人が獲っちゃった。
なんか、とてもUNIVERSAL戦線ウォッチャーですね。
MAO ええ、こだわり持ってますもん。無差別級は逆に「頑張れ!」と思いながら見ているだけという。
鈴木選手から「MAOとは海外で一緒になって」という話をよく聞いていたんです。
MAO もちろんそれ以前にDDTへ参戦していたから見てはいたんですけど、とてもじゃないけど挨拶なんてできなかったです。練習生がボコボコにされているのを目の前で見ているんですから。試合前もずっとリング上で、一人でシャドウしているから話かけられるような雰囲気じゃない。普通は最初にお会いした時点で挨拶にいくものなんですけど、鈴木さんはそうさせないオーラがすごかった。それがイギリスのRPW(レボリューションプロレスリング)でお会いした時、すごく気さくに話かけられて「おう、日本人!」って言われました。そこで初めて「DDTプロレスリングのMAOです」と名乗れました。DDTにも出たり、TAKAYAMANIAのお手伝いでいったりした時も同じ空間にいながら、挨拶するまで4年もかかったという。それで挨拶をしたら「何、DDTやめたの?」「いえ、やめていないです」って会話が始まって、なんか変だぞ、鈴木さんがやさしいって思っていたら外国人選手がみんな鈴木さんのことをやさしいって言うんです。ウソだろ、そんなことないじゃん!って思ったんですけど、そこからしばらくして試合で当たることになりまして。
2023年9月18日、名古屋国際会議場の鈴木&坂口征夫&赤井沙希vsクリス・ブルックス&MAO&アントーニオ本多戦ですね。
MAO その時、僕はコスチュームに“エセ骨法”って入れていたんですけど、鈴木さんが試合中に「おい、骨法野郎!」って、そこばかり拾うんですよ。本当に骨法っぽい構えで向かい合ってきたり、試合が終わってもまだ骨法野郎って言ってきたりで。
かつての盟友・船木誠勝が実際にやっていた骨法の構えを鈴木みのるがやる日が来るとは。
MAO そのあたりからちゃんと認知してくれるようになったと思うんですけど。イギリスの時は本当、ただ同じ大会に出たというだけで一緒に行動することはなかったんです。だから、その名古屋の試合で興味が湧いたのかもしれない。面白がられたなという強い感触があったんですけど、去年の2月にフランスの団体から呼ばれた時に鈴木さんとKUSHIDAさん(新日本プロレス)も呼ばれていて。その3人でなぜかパリを観光するというイベントが発生して、その時に初めてちゃんと喋りました。一緒に凱旋門を見て、エッフェル塔に登って、シャンゼリゼ大通りでビール飲んで。俺はなんで今、鈴木さんとKUSHIDAさんとここにいるんだろう…と思いつつ。道中の車の中で、KUSHIDAさんと昔のZST(総合格闘技大会)の話で盛り上がりながら、なんておかしなシチュエーションに自分はいるんだと思いました。そのあと、フランスからイギリスに流れるスケジュールだったんですけど、鈴木さんもまったく同じ行程で。鈴木さんはロンドン、僕はリバプールと出る団体は違っていて「じゃあ、明日頑張って」みたいな感じでお別れしたのに、帰りの便も同じだったんです。搭乗ゲートの前で「鈴木さん、お疲れ様です」「あれ? おまえ、もう帰ったんじゃなかったの!?」「いや、なんか同じ便でしたね」ってなって。そういうのがあって、去年の地元凱旋(2024年11月17日、宮城・大崎市松山B&G海洋センター)につながっていくんですけど。たくさんお話させていただいたのもあったし、鈴木さんはフランスの売り出し中の若手とシングルマッチだったんですけど、バリバリに動けるやつとやってもちゃんと鈴木みのるの闘いをしていてすごく感銘を受けたし、フランスでも『風になれ』の大合唱なんですよ。いやあ本当、この人すごい!と心を動かされて、それで自分の地元で誰と試合をしたいかと思った時に、鈴木さんだったんです。
MAO&上野vsクリス&鈴木で30分フルタイムドローでした。あのカードは自分で望んだものだったんですね。
MAO はい。会社にはシングルでやってみたいという話をやんわりとはしていたんです。そうしたら髙木(三四郎)さんが「シングルマッチだったら地元よりも両国国技館ぐらいのところでやっちゃえよ。だからタッグで鈴木さんとやって、鈴木さんの方がシングルでやりたいと思うようになるぐらい、地元で頑張ってみろ」と言われてあのカードになったんです。
DDTに推し活文化とは違う
“ワンツースリー文化”を持ち込む
実際、UNIVERSAL挑戦に名乗りをあげた時に「待ってました」と返されました。
MAO あれは拍子抜けしたというか。そういう言葉が返ってくるのは予想外で、まさか待っててくれているとは思っていなかったんです。確かに、なんか面白がってくれているんだろうなっていうのはわかっていたんすけど、鈴木さんの方からこいつと試合をしたいっていうのはあまり見えてこないじゃないですか。
自分から求めるよりも「誰がかかってくるんだよ」というタイプですよね。
MAO だから、ああ言われた時にすごくビックリするがあまり、拍子抜けしちゃったんです。同時に、めちゃめちゃ嬉しかったです。
しかもあの防衛戦を重ねた上での「待ってた」ですから。
MAO 青木真也の次に待ってたって言われるんだから「あひゃ~」ですよ。
「鈴木みのるに勝ってチヤホヤされたい」と言われていましたが、まだチヤホヤされたいんですね。
MAO そうッスねー。地元凱旋の時も、結局は30分引き分けで決着つかなくて、チヤホヤされ切らなかったんですよね。まあ、チヤホヤというかやっぱりオイシイじゃないですか、鈴木みのるに勝ったら。たぶん、鈴木さんもそういう気持ちの塊なんですよ。「さすがは鈴木みのるだな」って言われたい欲が絶対強い。だからこの一戦は強欲vs強欲の闘いです。
欲の強い方が勝つと。
MAO 僕はそう思っています。あの年、キャリアであそこまで強欲な選手は鈴木みのるぐらいしかいない。
だいたい上がっちゃったり、落ち着いたりするものです。
MAO 鈴木さんは今でも、海外のどんなに小さい会社からのオファーでもスケジュールさえ合えばいっちゃう。ああいう大人になりたいんですよ。プロレスラーって、存在の闘いだと思う中で、誰も勝てない域に鈴木みのるという存在があるので。鈴木みのるという存在で飯を食い続けている人に、その存在で勝てばMAOの存在も上がって、僕もMAOという存在で飯を食っていける。
ただ、現実としてはこれまでの防衛戦であれほどの挑戦者の存在感を飲み込んできたのが鈴木みのるです。
MAO ヨシヒコを上回った存在感がすごかったって、アメリカでは思いましたよね。これはリング上でも言ったんですけど、どこかで満足している自分がいて。若干惰性で走っている部分を感じていたんです。新日本プロレスの「BEST OF THE SUPER Jr.」に出てさんざんチヤホヤしてもらったにもかかわらず、鈴木みのるのオイシさには勝てなかった。ここで挑戦表明しただけでオイシイんじゃね?っていう、一瞬の衝動と欲には勝てなかったッスね。
それを思うと、いいタイミングだったんだと思います。
MAO そうなんですよ。今は本当に、KO-D無差別級の方には興味が向かないですから。広い視野で見たら、自分が無差別級のベルトを獲ること=団体が面白くなることではないと思ったんです。UNIVERSALのベルトで自由にやった方が、自分のよさは出ると。今は二十代で勢いもあるけど、三十代になってちゃんと地に足をつけて覚悟を持てたら無差別級の方にシフトしていくのかもしれないです。
UNIVERSALの方も、チャンピオンになったら一つの括りはできてしまい、自由とはならなくなるのでは。
MAO でも、去年のUNIVERSALを持っていた時もこんなに自由でいいのかっていうぐらい自由にやっていましたから。あのベルトを持つことで息苦しい思いをすることが本当になかったんですよ。これは無差別だったら、BAKA GAIJIN(クリス・ブルックスプロデュースのミニマムな興行)なんかに出てんじゃないよ!って言われるかもしれない。でも、UNIVERSALに関しては自分がそうならないような雰囲気を作るし、それも自己プロデュースだと思っているので、なんでもありでしょっていかに会社に思わせるかの勝負ですよね。
鈴木みのるにシングルで勝つのは、それだけで一生食っていけるぐらいの価値です。ある意味、タイトルの価値を超越している。
MAO だから、勝ったら「鈴木みのるに勝ったMAO」ではなく「青木真也に勝った鈴木みのるに勝ったMAO」の肩書きを名乗ります。
鈴木選手はDDTにおける上野・MAO世代の選手を「頭の中が電卓」と表現していました。リンゴを1個、2個と数えるのではなく、一瞬にして難しい数式の答えを弾き出すようなプロレスということなんですが。
MAO あー、上野勇希はそうかもしれないですね。自分はもうちょっと感覚で生きているというか、いろんな人と試合して、自分が一番熱くなれるのってそういう計算しない人とやっている時なんです。阿部史典(格闘探偵団)しかり、黒潮TOKYOジャパン(アップタウン)しかりで、あの人たちって感覚だけでやっていますよね。僕も絶対、そっち側なんですよ。計算していなくて感覚と、大事なのはパッションというか気持ちの部分。普段は冷静なんですけど、冷静さを欠いて殴り合っている時が一番生きている実感がするんです。鈴木さんもそういう人間でしょう。理屈じゃない部分で闘わないと、鈴木みのるには勝てない。
プロレスラー・MAOも、ちゃんとアグレッシブなんですね。
MAO 意外に思われるんでしょうけど、僕の好きなプロレスは殴る蹴るですから。肉体的にどっちがタフか、そういうゴツゴツした部分が実は好きなのに、こういうスタイルになっちゃった。
BEST OF THE SUPER Jr.中も感覚でやれたんですか。
MAO そうですね。僕は連戦の疲れが出た時に自分が読めなくなるところがあって、BEST OF THE SUPER Jr.はそれが怖かった。連戦疲れに慣れない環境もありつつで、そういうヘンな自分が出てきたらどうしようみたいな。
出ちゃったんですか。
MAO 出ずに済みました。そんな日々の中で、一番好きな魂の殴り合いをできたのが、ティタンだったという(5・15後楽園)。これが自分の中では本当に意外だったんです。
日本人対決よりもソウルフルに。
MAO ティタンとの公式戦の前は本当にナーヴァスで。僕はメキシカンとやるのが苦手というか不得意で、世界のいろんなところでプロレスをしてきましたけど特にCMLL系のレスラーと手が合ったことがなくて、自分の気持ちいいプロレスができたことがなかったんです。
CMLLはオールドスクールですから、ルチャリブレの中でもまた独特ですよね。
MAO 足とか変な方向に曲げられるし、とにかく知らない技をかけられるんでどうなってんだこれ? もう無理!っていう感じなんですよ。本当に苦手意識しかなくて、メキシコにいきたくない理由も、ルチャドールと試合をしたくないからなんですけど、だからティタンとの試合も絶対無理と思っていたら、一番心が震える試合になりました。それはおそらく、ティタンにはCMLL系のベースがありつつも、新日本に上がり続けて日本のプロレスの大事な部分をしっかり持っている選手だからだったと思うんですよね。あとは、後楽園の磁場もあった。なんかね、プロレスしているっていう実感を味わえたんです。
DDTの満員の後楽園とは違う感覚?
MAO そうでした。客層の違いはもちろん、単純にリング上の熱が高いって思いました。そこはDDTの方が難しく感じる。ウチの売り出し方として、推し活文化に寄ってきていると思っていて、みんな推しの選手を楽しみに足を運んでくれている部分が大きくなった。それによって、DDTの会場の熱はお客さんのベクトルの方向がそれぞれの違う方向に向かっているなって感じているんですよね。
面白い見方ですね。
MAO それに対し、新日本プロレスのお客さんはベクトルが全部リングの真ん中に集まっている感覚で。もちろんそれはどっちがいい悪いという話じゃなく、上がってみて感じた違いなんです。DDTって“ワンツースリー文化”がないじゃないですか。
フォールカウントが入った時、一緒に数える一体感は、言われてみればあまり意識はしていないです。
MAO 新日本では技を返した時、ロープにエスケープした時、やり返した時、どれもリアクションが新鮮で、プロレスリングをしている実感がすごかった。僕はそれをDDTでやってみたい。単純に、もっとプロレスリングとして盛り上げたいんです。それぞれの推しにベクトルが向かう上で、基本的なプロレスの楽しみ方で盛り上がれば。
それこそ自分がファン時代に見ていたプロレスのように。
MAO そうです。それができたら、DDTはもっと盛り上がるようになると思います。そこに気づけたのも含めて、BEST OF THE SUPER Jr.はいい経験になりました。一つとして同じ試合がなかった。そこは僕が自分のスタイルを押しつけるのではなく、柔軟に対応していくタイプだからというのもあったかもしれないですけど。
棚橋さんからスリングブレイドを
もらったのはポストすることじゃない
昨夏、上野選手のKO-D無差別級王座に挑戦する形で両国国技館のメインを張ったじゃないですか。そこをピークにすることなく、さらにさまざまなステージを獲得していったのはさすがだと思いました。
MAO 上野戦に関してはThe37KAMIINAの集大成的なところもありましたよね。竹下さん(KONOSUKE TAKESHITA)が抜けたりとか、一緒に辛い時期をみんなで頑張ってきた中で、僕はUNIVERSAL、上野勇希は無差別級を持ってDDTをまわし続けてきて迎えたあの試合でしたから、ここでいったん終わったなっていうのが自分の中にはあった。サウナに関してもやりきった。2回もテレビに出られて(『マツコの知らない世界』にサウナのメンバーで出演)、これ以上何があるんだと思って。
でも、あの時点では抜けなかったですよね。
MAO 唯一の心残りがTo-yの成長だったんです。ちょっと伸び悩んでいましたからね。でも、二人でKO-Dタッグのベルトを獲って成長させることができたなと思って、あとはここから新しいことを自分がやっていかなければならないなと。だから、あの両国はまったく自分の中ではMAXだとは思っていなかったですね。むしろオイシイのは三十代になってから。さっきのアルバムの話じゃないですけど、ファーストとセカンドを初期衝動で出したら、サードアルバムから音楽性がちょっと変わってくるような感覚。
そういったものを自分で見つけ、向き合うものが途切れることなく来ていますよね。それは常に自分で行動しているからですか。
MAO 実際に動くのは、本当に自分がこうと決めた時しかないです。本当にやりたいことしかやらないというか、やりたくないことをやってもやっぱり輝けない。言っちゃうと、ウソをつけないんですよね。やりたくないことを、自分の気持ちを殺してやるのはウソだと思っているんで、やりたいことをちゃんとやっていく。その中でついてくる人とついてこない人が出るけど、ついてくる人は大事にしたいよねっていう。
今のところ、支持されています。
MAO ありがたいことにね。こんなめちゃくちゃに、突然何か言い出して、何か始めたりするのに。
突然と言えば、KANON選手がDAMNATION T.Aから追放された時に救出へ入ったじゃないですか。あの時、なぜか杏仁師範(かつてIWA JAPANに登場した)の格好で入っていました。KANON選手は意味がわからず、怖くなかったそうです。あれもやりたいことだったんですか。
MAO 今だから言うと俺一回、高梨(将弘)さんへ挑戦表明した時に、杏仁師範を身にまとっていったことがあって(2022年5月26日、我闘雲舞新宿FACEのアジアドリームタッグ戦後)。まあ…マサさんに対するどうこうまで言っちゃうと、ちょっと重たいじゃないですけど、そういうミーニングがあったんです。誰も気づかなくていいんですよ。マサさんだけ気づいて、ほっこりしてくれたらいいなっていうだけだったんで。またMAOがヘンなことをやっているなぐらいに思えてもらえたらそれでいい。KANONはあんな格好でこられてビックリしたでしょうけど。
そうだったんですね。確かに、そうした思いによるものであれば、説明するのは野暮ですよね。今の話を聞いて、MAO選手は自分のやることに対し一つひとつ説明しないタイプだよなと思いました。それが面白いんですけど。
MAO 実はちゃんと理由があるという感じですか。自分がやっている技にしても絶対に由来があるし、意味のない技は出さないようにはしているので。一見、突拍子がないかもしれないですけど、一応全部自分なりには意味があるつもりでやっています。
今年のWRESTLE PETER PANは2DAYSでおこなわれ、注目カードが目白押しとなっています。比較対象がすごいものばかりという中での鈴木戦です。
MAO 棚橋弘至(vs男色ディーノ)ですからねえ。棚橋さんは、ヤバいッス。BEST OF THE SUPER Jr.中、ずっと一緒だったんですよ。棚橋さん、ツアーに帯同していたので。ユニットごとに控室がある中で、棚橋さんはどこのユニットでもないから同じ部屋になることが多くて、間近で見ていたんです。それで、スリングブレイドをもらったんですよ。
出していましたよね。
MAO あれ、本当に裏でしれっといただいたものだったんです。YOHさん(新日本プロレス)にHARASHIMAさんのコンビネーションから蒼魔刀を狙われてカチンと来て、スリングブレイドを返しちゃって。それが思ったより決まった勢いでハイフライフローまでいっちゃったんですよ。
あれは言わずに使ったんですね。
MAO 言っていないです。突発的だったから。それで終わった直後に、裏で棚橋さんがちょっとニヤニヤしながら「やりやがったな」という感じの指を見せてきて。それで最終戦の大田区総合体育館の日、急に「MAO君、スリングブレイド使ってよ」と言われて。「ええっ、僕なんかがいいんですか!?」って言ったんですけど、さすがに荷が重いなと思っていたら新日本とDDTの一面対抗戦があって(6・9後楽園)、これはもう棚橋さんにスリングブレイドをいかないといけないと思って、棚橋さんにやりました。
物語ですねー。
MAO あれはちゃんと物語だったんですよ。BEST OF THE SUPER Jr.から帰ってきて、かぶれて出したとかじゃなかった。これはメディアでなければ言いたくないっていうのがあって、安っぽくXにポストすることじゃないと思って今まで出さないできたことです。「今日、棚橋さんにスリングブレイドを伝授してもらいました!」なんてつぶやいたらダサいじゃないですか。だからこれからも、大事な技ですし、僕のピンチを救う技になると思います。
鈴木戦でも出るかもしれない。
MAO 確かに。この2日間で棚橋さんも一番オイシイところを持っていこうと思っているでしょう。棚橋弘至こそ強欲の塊だし、鈴木みのるもそう。やっぱり、あのキャリアでなお上にいる人たちってそうなんですよ。じゃないと、あそこまでならない。今って“俺が俺が”するのを避ける風潮もありますよね。特にDDTはそういう雰囲気でやってきた団体だし、僕も実際そうだったんです。みんなで上がっていけたらいいなという考えだったんですけど、もう俺が上がらないと話にならないところもあるんで。海外にいっぱいいったのも、まず俺が海外で有名になって、DDTを有名にさせないとと思ったのがモチベーションだったんです。自分が“俺が俺が”しないと、みんなに還元できないよなっていう話なんで。今はKANONもいますけど、もうちょっとだけ“俺が俺が”して自分を高めないと、みんなを上げることができない。だからまずは、自分が頑張るっていう感じです。
“俺が俺が”で上回るにはハードルの高い人たちが多すぎる2日間です。
MAO でもね、新日本に出ても存在で食われることがなかったんで、いけると思います。そこは自信があります。