鈴木健.txt/場外乱闘 番外編 Vol.105

スカパー!公認番組ガイド誌『月刊スカパー!』(ぴあ株式会社発行)では、毎月旬なゲスト選手が語る「鈴木健.txtの場外乱闘」が連載されています。現在発売中の2025年10月号では、第135回(本誌ナンバリング)ゲストとしてスターダムの渡辺桃選手が登場。誌面では惜しくも載せられなかった部分を含めて大公開!!

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渡辺桃(スターダム)x鈴木健.txt 場外乱闘 番外編

入り口はほかの人に任せて、
入ってきてくれた人たちを楽しませて、
すげえ!って思わせて、納得させるのは私だから

渡辺桃(スターダム)

一瞬だけど引退してもいいって思っちゃったの。
でも、すぐに優勝以上の欲が自分にあるんだと

8年連続9度目の出場にして初優勝を果たした「5★STAR GP」ですが、桃選手の中でシングルのリーグ戦とタイトルマッチの位置づけの違いはどんなところにありますか。

 タイトルはその一試合に懸けてやればいいのに対し、リーグ戦は1ヵ月間にわたって集中しなきゃいけないから、気持ち的には全然違うよ。後先を考えずその試合に集中して防衛することだけ考えればいいのと、相手ごとに対策を考えて、公式戦を重ねるごとに溜まっていくダメージを考えてやるのでは、同じ頂上が懸かったものでも向き合い方は変えないといけないし、ましてや今回はそれが(同ブロックの)8人分考えなきゃいけなかったわけだから。その意味でリーグ戦の方がシンドいんだろうけど、どっちが上か、どっちの方が価値があるかというのはないと思うよ。ただ、長い目で見たらチャンピオンの方が私はいいかな。リーグ戦は優勝した時しか輝けないのかもしれないし、何かの称号を得たという感覚もベルトと比べたらね。ベルトと違って、あの王冠はずっと持っているものでもないし。

しかもバックステージコメントで「ダサい」と言っていました。

 得られるもので言ったら、タイトルの方になるよね。でも、その瞬間のエクスタシーというか、達成感はリーグ戦でも得られるし、優勝者として名前は残る。自分の強さを証明する場という意味では同じだと思うよ。

なぜそれを聞いたのかというと、リーグ戦はタイトルの挑戦者決定戦ではないと言っていたからです。タイトルとは違うこだわりを持っていると見受けられました。

 なんか、ここ最近は5★STARに優勝したら赤いベルト(ワールド・オブ・スターダム)に挑戦するって決まっちゃっているようだったじゃん。でも、その赤いベルトを持っている沙弥様(上谷沙弥)が優勝できなかったわけで、今の時点でそれより私の方が上になっているのが現実なんだよ。

団体最高峰のベルトよりも上にいる。

 そう思うと、挑戦者にならなくていいかなって思って。挑戦者っていうだけで下になる。優勝した人間が、優勝していない人間より下というのも、おかしな話でしょ。

それほどの価値がこの優勝にはあると。

 特に私はこれまで9回も出場して、ずーっと他人が優勝する姿を間近で見てきたからね。気持ち的には、これでもう引退してもいいかなって思えるぐらいに嬉しかった。それほど5★STARって、自分にとって重いものとしてとらえていたし、白いベルト(ワンダー・オブ・スターダム)を獲るよりも難しかったし。ホントね、一瞬だけど引退してもいいって思っちゃったの。でも、すぐに優勝以上の欲が自分にあるんだと思って。

その欲とは?

 優勝することによって、何に対しても権利があることに気づいた。周りが「次はベルト挑戦ですよね」って言っても、そうじゃねえよ!って言える発言権を得られたし、誰と闘いたいかっていうのも自分が言いたい時に言ってもそれが認められるようになった。優勝という望みをかなえることで、もっとやりたいことやほしいものが広がるんだって。それに、SNSとかでもちょっと発言しただけなのにすごく拡がるようになって、目に見えて自分の発言力が高まっているのがわかったし。

ずっと優勝できなかったことは、ご自身的にはどうしてなんだろうという思いは持っていたんですか。

 去年はダメダメだったけど、そのほかの年は毎回けっこういいところまでいきながら、あと一歩届かないっていう感覚はずっとあった。でも、どんな結果に終わったとしても自信は常にあったの。今年も優勝できなかったのはなぜなのかと考えるよりも、負けたけど自分は強いからって当たり前のように思えて、落ち込むこともなかった。それが自分の性格なのかどうかは考えたことないけど。

むしろ応援し続けてきたファンの方が「苦節〇年の初優勝」という感じで喜んでいました。

 ハハ、そうかもね。あいつらの方がもしかすると悔しい思いをしてきたんだと思う。私自身は「いいじゃん、自分は強いんだから」って引きずらないのに。去年もベルトに3、4回挑戦して負けてばかりだったから、いつまで応援すれば喜べるんだ?と思っても仕方ないよね。まあ、だからこその「待たせたな!」だったんだけど。

優勝できないことでの悔しさも感じなかったんですか。

 いや、悔しさは悔しさとしてあったな。自分は強いと思っても、実績をあげられないことで周りがそう思わないことに関してはチキショーってなったと思う。でも、それも「何かがちょっと足りないだけだろ」って思って、まったく心は折れなかった。

H.A.T.Eというヒールユニットに所属しながら、優勝を果たした時はファンに対する感謝の意を口にしました。

 待ち望んでいただろうからね、私が優勝することを。8回分も見てきて、一度も優勝できなかったわけだから、そこでもういいやって離れてもおかしくないわけで。それでも離れずに9回目の5★STAR出場の私まで見続けてきた人に対しては、感謝であるとともに賞賛の思いもあるから。

今年の夏は特に酷暑で、1ヵ月間にわたりシングルの連戦を勝ち抜かなければならなかったわけですが、連戦を乗り越える秘訣のようなものはあったんでしょうか。

 今年の夏に関しては、ほぼほぼ外に出ていない。日光に当たったら死ぬって、鬼滅の鬼みたいだけど、初めて日傘を買ったぐらい太陽を避けていた。

巡業先でも宿舎と会場以外は出ないような。

 移動もタクシーにしたし、外に出るのは夜になってから。でもそれは心がけてそうしたわけじゃなくて、本当にそうしないと無理っていうぐらいに暑かったから。そうやって、とにかく無駄にエネルギーを消費しないようにしたぐらいかな。前は北海道にいったらワーッと遊んだりもしたけど今年はしなかったし、夏はプールや川にいっていたのを今年は5★STARが終わってからいこうと決めて。これは年齢もあるのかもしれないけど、今までは寝たら回復していたのがだんだん回復しなくなってきたんだよね。

年齢って、まだ25歳じゃないですか。

 でも、十代からやってきているわけだから。もう、疲れの具合が違いすぎてさ。

そういうものなんですね。

 それもあって、日中は行動したくねーって。それが夏を乗り切る原動力になったのかなあ。

大江戸隊に入って怒りのまま相手を潰す
ことに集中したら、逆に冷静にいけた

桃選手はタフネスぶりを自身のカラーにしているわけではないですよね。にもかかわらず、今回の連戦を乗り越えられたところに目を見張らされたんです。

 昔からタフではあったんだよ。ケガしてもわりと元気だったり…右ヒザを負傷して長期欠場したことがあったんだけど、ケガをした直後は泣いたのにお腹がすいたらおにぎり3つ食べていたからね。

それは精神的なタフさですね。

 そのケガの手術も、麻酔が切れた直後にご飯をいっぱい食べる自分に、私って元気でタフじゃんって思った。

言うなれば、短距離走のランナーでも長距離の走り方を知っているんだなという印象です。

 なんでもできると言ってよ。ハイスピードかって言ったらそれとも違うんだろうけどやれないことではないし、長時間の闘いだってできる。どんな展開になっても、気持ちで動いている。

本能で。

 今回も一日2試合の時もあったけど、それで心が折れることもなく、勝ちたいと思ったら本能がそれに向かって体を動かすような感覚だった。8月16日にSareeeと公式戦をやって、その4日後は決勝トーナメントの1回戦を(壮麗亜美と)やったあとにまたSareeeとやって、3日後にはまた一日2試合で安納サオリ、AZMって…1週間で5試合、うち一日2試合が2回だよ?

4日間でSareee選手と2度シングルマッチで対戦するというのも、なかなかの。

 一番の山は20日だったな。Sareeeと2回やったことでけっこうわかった部分もあったし…やっぱりね、強いよ。

そこは認める。

 その上で、届かなくはないなって。実際、2回目は私が勝ったし。前は外から見ているだけで、他団体に出ているのをSNSで知る程度だったからどんな人間なのかもわからなかったし、どれぐらい高い壁なのかというのもわからなかったんだけど、意外と越えられなくないことがわかった。だって、向こうは優勝してないじゃん。

そういう、強さを感じさせる相手というのは、これまでのキャリアの中でどんな選手がいましたか。

 それはいっぱいいたよ。その中で今、パッと顔が浮かんだのは高橋奈七永。スターダムにいた時に1回、やめてから1回シングルでやっているんだけど、日本武道館でやった時(2021年3月3日、2度目の一騎打ち)、試合前も終わったあとも泣いていたからね。それぐらい圧が凄かった。闘う前から圧倒されて、気持ちでも負けているのがわかった。すべてにおいて強いなって思ったよね。強くて、そして声がうるさい。

パッション、パッション!と。

 受けが強くて攻めも強い選手ってなかなかいないものだけど、高橋奈七永はどっちも強かった。でも今思うと、あそこなんだよ。あれを経験したことによって対戦相手に恐怖心を持つことがなくなった。あまり言いたくないけど、それまでは試合前や終わったあとによく泣いていたのが一切、泣かなくなった。Sareeeと闘いながら、あの時と似た感覚があったんだけど、気持ちで負けることはなかったしね。

プロレスを続ける中で、何を自分の軸にするかというのがありますよね。巧さかもしれないし、人によってビジュアルかもしれない。その中で桃選手は先ほど、強さを口にしました。

 どんなやり方であっても、プロレスラーとしてどんな色でやっても、強さが大事っていうのはずっとあったの。ただ、自分自身の中でそれが正しいと証明できる結果が出なかった中で、もっと違うものを追求した方がいいのかなと思ったこともあったんだけど、今回優勝したことで、やっぱ強さだよなあって改めて思えたところがある。かわいいのがウリの選手もいるし、巧い選手もいるけどそういうのは強さが前提にあって成り立つ持ち味でしょ。かわいいだけでチャンピオンになれると思う?

だけでは無理です。

 そして、その強さにもいろいろある。さっき言った打たれ強さもあれば、当たりの強さ、気持ちの強さ…私は、どの強さにも直結するものを求めて続けてきた気がする。別に人気者なんかにはなりたくねえし。そうやって続けてきて、今は自分って打たれ強いって自信を持って言えるし、心も折れないから強いし、ケガもしないし…あれ? 私、全部強いじゃん。

試合展開的に、ヒールは反則プレーに走る分、正攻法の技を受ける場面が多くなります。ヒールターンしたことが受けの強さにつながっているのかもしれません。

 確かに。大江戸隊に入った頃はキャリア的にも狙われることが多くてやられまくっていたけど、そこは省エネだったから。

省エネ?

 体が耐えきれなかったら攻められて終わりだけど、自分が攻撃のために動くよりもスタミナの消耗を抑えられるし、そこから場外戦に持ち込んでボコボコにすればひっくり返せるから。見ている方はやられる場面が多いなって思っていただろうけどね。でも、そうすることで体が頑丈になって大きくなったし、今につながっているよね。

ヒールターンしたことがプロレスラーとしてのスキルアップにつながった。

 だから、あの選択は間違っていなかったんだよ。もともとあそこで決断したのは、それまでの自分を変えたいってずっと思っていたからで、その年の5★STARが準決勝までいきながら、そのあとのタイトルマッチで負けて思った通りにいかなかったんだけど、その中で自分って怒っている時の方が強いことに気づいたの。一時期“怒りのJKファイター”って言われていたけど、それって自分だけじゃなく周りが見てもそう映っているわけで、じゃあ常に怒っていればいい。それにはQueen's Questを出て大江戸隊に入れば…っていうのが結論だった。

それまでは怒っている自分が強いという認識はなかったんですか。

 それまでは、ただガムシャラにいっていただけで。それが怒りのまま相手を潰すことに集中したら、逆に冷静にいけたんだよね。それは自分が生きてきた中でけっこう大きな発見で。小さい頃から私はヘラヘラしていて、怒るなんてことはなかったの。それこそ友達と喧嘩したことさえなかった。だから怒った時の自分がどんなふうになるのかを知らずに来た。それがあの時、知らない自分を発見して。見えなかった部分が見えたことでけっこう冷静になれた。冷静どころか「この今まで知らなかった自分をデフォルトにしちゃえばいいんだ」って答えを導き出しているの。それで実際にやってみたら、本当になんでもできちゃうし、なんでも言えるようになった。やることを形にしたり、考えを言葉にしたりすることで答えを得られるわけで、その積み重ねの中で判断力が養われたし。今思うと、ガムシャラな頃って、雑だったよね。ガムシャラすぎないのがいいっていうのは、キャリアを重ねたからわかったのかもしれないけど。

いくつか分かれ道があるけどどれを選んでも
いい権利を得ているし、どれを選んでも正解

そうでしょうね。あと、ヒールユニットは多人数タッグマッチの中で主導権を握るために全体に視野を広げなければ機能しません。それも個人のスキルアップにつながったのでは?

 ああ、そこはね、その場その場で暴れているように見えるだろうけど、わりと頭を使っているよね。スターダムのユニットの中でH.A.T.E.が一番頭いいよ。

頭脳明晰ユニット。

 頭脳がなかったら、あんなに反則プレーできないよ。バカにできると思っていたら、そいつはバカだ。まあ、やったらやったでSNSにわざわざ文句言ってくるやつがいるけど、さっき言った通り、私は心が強いんで。そこも向いていたと思う。やること一つひとつ、他人の言うことを気にしてしまう性格じゃ無理だね。向いているから悪いことをするのも楽しいし、悪口言うのも楽しくて楽しくて。QQの頃は思っていることを言わないよう、言わないようにしていたからね。

それは先輩たちの手前言えないというやつですか。

 それ以前に、もともと言わないタイプだったから。友達と喧嘩をしたことがないって言ったでしょ。それは、喧嘩のタネになりそうなことを言わないようにしていたからで、何があっても自分が我慢すればいいって思っちゃうタイプだった。

では、今はまったく真逆じゃないですか。

 そう。でも、どっちも本当の自分なんだろうね。言わなかった時も、それが正しいおこないだと思っていたし、でも今は言えている自分が自然で。それは自分でも面白いと思う。人間って、真逆なものでもどっちか一方で割り切れるような単純なものではないんだなって思うよ。

今、同じH.A.T.E.に所属する上谷沙弥選手は、ユニットへ入る前から「団体のセンターになりたい」と言っていました。要はスターダムとイコールで結ばれる存在ですよね。反体制に回ったことで、そこに関しては遠回りになるわけですが、それでも彼女は形にするところまで来ています。桃選手は団体の顔、エースになりたいと思ったことはありますか。

 私はエースとか、センターとか、そういう願望はないよ。なんなら一番じゃなくてもいい。それよりも、自分が強いかどうかなんで。ポスターの真ん中にいるとか、一番大きく写っているとか、そういうのはいらないから自分自身が納得できる強さがほしい。

ブレないですねえ。

 ただ…本音を言ったら、岩谷麻優が抜けた直後に、アイコンになりたいとは一瞬だけ思った。なりたいというか、正しくは「私がいくしかないかな」だけど。

ほう。

 まあ、なんだかんだで昔からこの団体にいるわけだし、5★STAR最多出場っていう事実からも私がアイコンになるべきだなって…本当にちょっとだけだけど。

ちょっとだけを強調しますね。

 すぐに「でも、なったらなったで大変そうだな。言いたいことも言えなくなるし」と思ったら、もうなる気は失せたね。なんかさ、いろんなところで気を遣うのも嫌だし、私は私のやり方で自分の強さを一番にしたいだけだから。

よけいなものを背負いたくないと。話を聞くと他者による評価や形としての実績よりも、自分自身の中の納得ですよね。

 そう。結局は、自分が好きなことに対し正直になれるかでしょ。常に、今の自分は好きなことを楽しくやれているかを考えているから。好きなことをやって負けたのであればそれでいいし、勝てば嬉しいし…うん。

上谷選手のようにメディアに露出することで充実感を味わうというのも一つのやり方です。それは求めていないんですか。

 別にメディアに出なくたっていいし。

いやいや。今、取材受けているじゃないですか。

 まあ、こうやって取り上げてもらえるのは、ありがたいよ。上谷もめっちゃ頑張っていると思う。ただ、私は闘いに集中したいタイプなんで。上谷の頑張っているところを見ているからこそ、大変だなとも思うし。

自分自身が世間とプロレス界の入り口になるのではなく、入り口をくぐってきた人たちに何を見せるかということですか。

 それだよね。私は初めての人向けじゃないと思うし…派手な技もやらなければ、めっちゃビジュアルがいいわけでもないからねえ。

そんなことないですよ。

 だから入り口はほかの人に任せて。その上で、入ってきてくれた人たちを楽しませて、すげえ!って思わせて、納得させるのは私だから。

そこまでハッキリ言える自信の根源には何があるのでしょう。それを植えつけてくれた、影響を与えられた選手となると?

 (紫雷)イオさん(現・WWEスーパースターのイヨ・スカイ)。これはいろんなところでも言っているんだけど、最初にプロレスラー人生が変わったなって思えたのがQQに入った時で。イオさんは全部を言葉で教える人じゃないんだけど、練習中にちょっとしたアドバイスをくれて、その通りにやったらそれまで全然できなかったことができるようになった。

魔法のように。

 だから常にガッチリ付き添ってくれるという距離感ではなかったにもかかわらず、すごく的確だった。あとは一緒に組む中で初めてタッグワークも学んで。それも言葉で指摘するんじゃなく背中で見せてくれるタイプで。怒った時はしっかり怒られるんだけど、言っていることは的確だから、まったく理不尽じゃない。今のスタイルになってもそれはしっかりと息づいていて…いるんだけど、イオさんのスタイルをそのままやっているわけではないし、それを言ったら私の場合、誰かのスタイルを参考にしているところがないんだよね。

普通は先輩の模倣から始まりますよね。

 技術面に関してはイオさんを見習っている部分があるけど、それはスタイルとは違うから。

モチーフや叩き台がないと。

 今言われて、自分で気づいたけどおそらく誰とも被りたくないっていう意識がどこかにあったんだと思う。マネをするのがカッコ悪い。それなら言葉のチョイスや髪型というところで、アニメとかから引っ張ってきた方がいいみたいな。

どんな作品にインスパイアされているんですか。

 ヒロアカ(『僕のヒーローアカデミア』)の爆豪(勝己)が好きなんだけど、自分とは全然違うキャラだから思想的に似ているなと思ったのはヴィラン側。ああ、ヴィランも間違っていないじゃんって。

それが今の立ち位置とシンクロしていると。先ほど、優勝したことで次の欲が出てきたと言われていましたが、一つの目標を達成したあとこそモチベーションを持つのが難しいわけじゃないですか。タイトルや誰かに勝ちたいというものとは違う次元でそれに当たるのは何かあるのかと。

 そこに関しても本能や直感で動くから、あまり後先のことを見据えずに今を生きているの。赤いベルトはずっとほしいって言い続けているけど、IWGP女子もほしいし、なんなら海外のベルトもほしい。ただ、そこにどれが先とかあととかはなくて。その時点で自分の直感が何をほしがるかなんだと思う。もっと言うなら今まで獲っていないベルト。だから、白のベルトはもういい。モチベーションは何になるのかって聞かれたら、答えは“コンプリート”になるのかな。ゲームで言うなら、いくつか分かれ道があるけど全部を進んでみたい。そこに順番はなくて、むしろどれを選んでもいい権利を得ている今が楽しいし、どれを選んでも正解だろうし。それをクリアしたらまた増えてくるだろうし、終わりはないんだよ。

そのいくつかある道の中に、いつの日かイオ選手と対戦するというところへつながっているのもあるかもしれません。

 うん、いつかはやってみたいよね。イオさんもそうだけど、昔いた人たちが今の自分とやったらどうなるかなって考えることもあるんで。

桃選手は14歳でデビューしたわけですが、中学生の時点で人生の行き先を決めたわけじゃないですか。そこは、思ったらすぐ動いてしまうタイプだったんですか。

 あの頃も先を見据えてなんていなくて、今やりたいと思ったことに飛びついた感じだったね。変わらないなー。今思うと13歳で入門したから翌年には受験だし、本来であればいろいろと考えなきゃいけなかったんだよ。だけどプロレスをやってみたくなったら、母が連絡して1週間後には「練習に来てください」だったから、やりたいことをやれる道が拓いたことでほかのことを考えるような環境じゃなかったんだよね。親からもやめろって言われなかったし。ずっとそういう感じで来たから、先のことなんて見据えていないし、いつ引退するかもわからない。

特にプロレス以外でやりたいこともないでしょうしね。

 いや、実は一つあるんだけど。

なんですか?

 これ言うとイメージ崩れるかもしれないけど、保育士。

いや、素晴らしいですよ! 子どもたちを悪の道へ導いてください。

 それもいいな。でも、今やりたいってものじゃないから。それがいつになるかは私もわからない。今は一人でもたくさんの人に、渡辺桃のプロレスを見てもらえたらいいんで。そのための場所として、たとえば東京ドームってなるかもしれないだろ。スターダムとして東京ドームに進出するんじゃなくて、私を見てもらうための東京ドーム。そこは違うから。スターダムが私についてくればいいんだよ。

※Queen's Quest…2016年11月、紫雷イオ&HZK(葉月)&渡辺桃により結成。2018年6月にイオの退団を受けて桃が2代目リーダーに。2024年7月、上谷沙弥のH.A.T.E加入により消滅

※大江戸隊…2015年に木村モンスター軍と安川惡斗らが結託し結成、その後もメンバーを増やし反体制ユニットとして一大勢力を誇る。2024年7月、4代目リーダーの刀羅ナツコが解散を宣言し、新ユニットとしてH.A.T.Eを結成