鈴木健.txt/場外乱闘 番外編 Vol.102

スカパー!公認番組ガイド誌『月刊スカパー!』(ぴあ株式会社発行)では、毎月旬なゲスト選手が語る「鈴木健.txtの場外乱闘」が連載されています。現在発売中の2025年6月号では、第131回(本誌ナンバリング)ゲストとしてみちのくプロレスのコミッショナーも務めるフジタ“Jr”ハヤト選手が登場。誌面では惜しくも載せられなかった部分を含めて大公開!!

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フジタ“Jr”ハヤト(みちのくプロレス)x鈴木健.txt 場外乱闘 番外編

ハヤトらしくやめるのか、
戻ってこなきゃって思うか。
今回のプロデュース興行で
そこに関しても俺は見たい

フジタ“Jr”ハヤト(みちのくプロレス)

俺がアニキと呼んでいる卍丸とKen、
弟のような拳剛が高橋ヒロムと絡む

みちのくプロレス6・13後楽園ホール大会がフジタ“Jr”ハヤトプロデュース興行として開催されます。以前から自身がプロデュースする大会を開催したいと思っていたんですか。

ハヤト 全然! 実は僕、去年がデビュー20周年だったんですよ。

2004年12月3日デビューですから、12月で丸20年でしたね。

ハヤト 一応、20周年イヤーだねっていう話はしていて、でも12月は宇宙大戦争だから、そこでやるよりは6月の後楽園で1、2試合プロデュースしてみない?っていう感じだったんです。それも「ハヤト、体の方はどう?」「そうッスね」「やってみる?」「いいッスねえ!」みたいなところからの流れだったので、それぐらいのことなのかなと思っていたら、大会自体をプロデュースするっていう話になっていました。

想定していなかったんですね。

ハヤト ここ最近に限っても〇〇プロデュース大会って、いっぱいあるじゃないですか。どうすんの?って話ですよ。

リングを離れている間に自分だったらこういうカードを組むとか、こういう試合を見たいというような空想はしていなかったんですか。

ハヤト 僕はやっぱり一生、プレイヤーなんですよ。みんな、めちゃくちゃすごいことをしてんなって思っていました。だから俺、向いてねえなって思いますもん。この間、拳王(プロレスリング・ノア)が拳王&新崎人生(みちのくプロレス)vs高橋ヒロム(新日本プロレス)&剣舞(みちのくプロレス)っていうカードを組んだじゃないですか(4月15日、拳王チャンネル主催興行後楽園大会)。あれを見て、そこは新崎人生じゃなく俺でしょって思ったんです。だから、どんなカードを空想するにしても自分主体になっちゃう。俺があそこにいた方が、もっと沸いただろって思うから、プロデューサーっていうのは向いてないなって。

その上で、自分が試合に出ないプロデュース興行をやると。

ハヤト その意味で、ここ最近のプロデュース大会とは違うものになると思うし、今は(みちのくの)コミッショナーという立ち位置にいるので、東北でもプロデュース大会をやるかもしれない。みちのくプロレスの中でのプロデュース大会と自分は受け取っているんで、それがファンの人たちに伝わればいいと思っています。

個人としてのプロデュースではなく、あくまでも自分がみちのくプロレスの大会をプロデュースするという位置づけですね。

ハヤト 頭の中がやると切り替わってからは、他団体の選手をいっぱい呼んで盛大にやるという思考にはならなかったんです。そういうのはいろんな人たちがやっているし、ファンもそう思っているかもしれないけど、必要最低限の人に出てもらってあとはみちのくの選手が見せればいいと。だから基本はみちのくプロレスの後楽園大会で、そこに僕と対戦したことがある選手が何人か来るよっていう形です。カードが発表されていない時点でけっこうチケットが売れている話を聞いていたので、もしかすると期待を裏切ったのかもしれないけど、俺はみちのくの選手で満足させられると思っているんで、頑張ってくれよって感じです。

では、全試合プロデュースと決まってからカードは考えたんですか。

ハヤト メインに関しては、やるとなって10分後に浮かびました。そこが確定していれば、第1試合はこうで第2試合はこうでって簡単にハマっていきました。

高橋ヒロム&卍丸(みちのくプロレス)vsKen45°(みちのくプロレス)&拳剛(フリー)というカードは、ハヤト選手でなければ考えつかないと思いました。

ハヤト まず、どうしてもヒロム君と卍に(同じコーナーで)並んでほしかったんです。これがゲームの世界だったら、俺はそうしています。その対戦相手には、ずっと一緒にやってきたKenがいて、慕ってくれる拳剛がいる。その4人で兄弟喧嘩を見せてほしい中で、カラーもキャラクターもまったく違うヒロム君と卍が横になった時にどうなるか。

卍丸、Kenの両選手は「BAD BOY」としてずっとハヤト選手と一緒で、拳剛選手も元BAD BOY。その中にヒロム選手をぶち込むと。

ハヤト 卍のような選手って、たぶんヒロムが経験したことがないと思うんですよね。あそこまで感情があるのかどうかわからないタイプって。

コミュニケーションもとれるかどうか。

ハヤト だからどうなるか、俺が一番見たいんですよ。このカードは、興行の中で一試合だけプロデュースするってなっても浮かんでいました。だから、全体をプロデュースするのであればこれがメインとしか考えられなかった。あとは剣舞が出てくれるんで、ラッセと組んでバラモン兄弟。

剣舞選手は現在、みちのくを離れていますがかつてはラッセ選手とのマスクマンコンビでみちのくを盛り上げていました。

ハヤト 後楽園って、ヤッペーマンとバラモン兄弟が当たるのがお決まりのカードになっているじゃないですか。もちろん見たら面白いし盛り上がるけど、それは12月でいいんじゃね?と。剣舞がみちのくに帰ってきてくれるんだったら、組むことでラッセもいい刺激になると思うし。

頑張って減量して、剣舞選手と組んでいた頃の体重に戻すかもしれません。

ハヤト 剣舞と絡むことでシュウさん、ケイさんもいつもと違う試合をやってくれると思うし。本当なら、社長(新崎人生)と会長(ザ・グレート・サスケ)、そしてディック東郷さん(いずれもみちのくプロレス)に関しては休みでよかったと思うぐらいで。ベテランの人たちってめちゃくちゃ尊敬していますし、あの人たちがいなかったら僕らの時代も来なかったのはわかっているんですけど、いなくても大丈夫って思っているからこそ、自分がプロデュースする時はそれを形にしていく必要がある。こういうふうに言うやつっていなくて、どちらかというと出てくださいってなるじゃないですか。僕らの世代で盛り上げるから任せてよって思うんですよね。社長は「人がいなかったり、足りなかったりしたら声をかけてくれていいから」と言ってくれたんですよ。でも、ほかの選手たちはどう思っているかわからないけど、俺はフジタ“Jr”ハヤトのプロデュースっていう意味ではそっちの方だって思っています。

先人たちの力を借りることなくやるのは意味がありますよね。

ハヤト なので、今回は力を借りる形になるけど次回以降はそういうところでも姿勢を示さなければならないと思っています。

メインで刺さるのは、拳剛選手を入れたことです。

ハヤト あいつは本当によく頑張っているし、俺の一日限定復帰の時(2019年12月13日、後楽園)も、あいつが相手をしてくれた。前回の復帰する前も今も定期的に話をしてくれるんです。どうですか?とか、こういうの見ました?とか、なんらかの形で一緒にやりたいから待っていますと言ってくれる。俺は俺で、自分の中の悩みが大きすぎちゃって、ちゃんと周りを見られていない部分があるんですけど、ヒロムとシングルマッチができたのもそんな簡単なことじゃなかったと思うし、でもそれって俺だからできたことでもあるんですけど、日本のトップだと思っている高橋ヒロムとやれるチャンスを与えることができるんだったら拳剛だし、その空気感とかヒロムが背負ってきたものをこのリングの中で体感できるのは、俺のことをかわいがってくれたアニキと呼んでいる卍とKen、あとは弟しかいない。そこによけいな人は入れたくなかった。おそらく会社的には(みちのくの若手の)山谷林檎🍎とか、大瀬良(泰貴)や(日向寺)塁を入れてよってなると思うけど、高橋ヒロムの世界観をワンチャン飲み込める卍がいるじゃないかって思うんで、拳剛には単純に高橋ヒロムとやってほしいのとともに、卍丸に火をつけてほしい。

高橋ヒロム、剣舞、トークショーに出演する拳王が注目を集める中で拳剛選手にスポットが当たるようにしたいという思いもあったんですか。

ハヤト そうですね、拳剛はちゃんと周りのことを考えられる人間で、あいつほどプロレスが好きなんだなって思えるやつってそうはいない。メインのカードが浮かんだ時、真っ先に拳剛に言ったんですよ。「プロデュース興行をやるんですか?」「やるよ。メインはこういうカードでいくつもりだから」「ええっ!?」「だから6月13日は空けておいてね」っていうやりとりをしました。

初めてのコミッショナーらしい仕事
東京のファンを東北に呼ぶための第1弾

拳王チャンネル主催興行へ登場した時に「この間、拳王と対談したんです」と言っていましたが、それは昨年7月に発刊された書籍『拳王のクソヤローどもオレについて来い!!』に掲載された対談のことですか。

ハヤト そうです。あれで初めてあいつとちゃんと喋りました。まあ、あれが喋ったうちに入るかはわからないけど、長い時間一緒にいたのは初ですね。あの時は、その話が来てまず「俺で大丈夫ですか?」って言ったんです。

拳王選手がみちのくに在籍していた間で会話したのは2、3回で、しかも挨拶程度だったんですよね。

ハヤト ほぼほぼ喋ったことがなくて「お疲れ様です」「お疲れ様です」ぐらい。そんな相手と何を喋るんだ?から始まって。俺が休んでいる時に見た拳王って“賑やかな拳王”のイメージなんですよ。それが実際に会ってみたら、本当に先輩と後輩というか…拳王とフジタ“Jr”ハヤトの対談じゃなく、中栄大輔(拳王の本名)と話しているみたいになったんです。それを見て、その場にいた人たちは僕が拳王をいじめていたように受け取って、対談が終わってから言われたんです。

そんなことはないですよね。

ハヤト ないない。でも、周りはなんかざわついたみたいで。それぐらい拳王じゃなかったんです。だから俺の方があの2時間半は、地獄でした。社長にも話しました。「この前の拳王との対談、マジでヤバかったです。全然キャラが違うし、マジでやりにくかったです」って。だから、リング上でも言った通り、俺にとって今度の拳王とのトークショーはリベンジなんです。

まあ、客前だったら変わってくるでしょう。じゃあ、その対談によってわかり合えたというようにはなっていないんですね。

ハヤト はい、スタートから終わりまで違和感しかなかった。初めての会話だったからかもしれないけど…もっと、いつものように言ってくれると思ったんですけどね。それを今度は人前でやるわけだから、こっちの呼吸が止まるかもしれないですよ。

でも、自分からトークショーをやろうって言ったんですよね。

ハヤト まあ、そういうのも見てもらった方が人間味あっていいかなと。滑るにしろ盛り上がるにしろ全部その場の空気でできあがるものだから。その中でちゃんと思いを言い合えたらいいかなと思っています。

言い合えますかね。

ハヤト 僕は前回もちゃんと言っていたと思うんですよ、ハヤトとして。でも…僕があいつのキャラ潰しをしまったんでしょうね。

では、今回はキャラ潰しをしない?

ハヤト わかんないですけど…盛り上げたいとは思います。

まあ、二人の関係性を見続けてきた者としては中身がどうなろうと会話が見られるだけで嬉しいです。今やYouTuberとして高名な拳王選手ですが、みちのく在籍時には考えられない方向で支持されています。

ハヤト すごいと思いますよ。いろいろな人たちにプロレスを知ってもらえるチャンスを作っているし、実際にそれでお客さんが入っている。僕はプロレスっていう言い方ではなく格闘技として全体をまとめて言っているんですけど、その格闘技によって助けられた人間だと思っていて、それは拳王もそうだしプロレスラー全員がそう。でなければプロレスをやっていないと思うんです。そのプロレスが一番だと信じて、広げようとしているあいつはやっぱりすごいと思うし、ありがたい。俺にはできないですよ。

言葉によって何かを伝えるタイプではなかったですよね。

ハヤト 垢抜けたんでしょうね。俺もあいつもカッコつけていた部分があったから喋ることもなかった。それがカッコいいんでしょ、試合で見せりゃいいんでしょみたいなのがあったんでしょうけど、トシもトシなんでね。そういのはいつの間にかなくなっていましたね。拳王もそうなったんじゃないかな。

あの頃の調子で来た方が会話は成り立つと。

ハヤト そう、僕はあの調子で来ると思っていたんです。でも、何もなかった。

意識しすぎてそうなったのか。たとえとして適切なのかわからないですが、好きな子の前だと喋らなくなるような。

ハヤト ハハハハ、だったら嬉しいですけど。

拳王選手によってプロデュース興行というものを先に見せつけられた形になりました。

ハヤト 一つの興行としてすごくよかったと思うし、同業者として見ても楽しめました。大成功だったと思います。ただ、半分ぐらいが他団体の選手だった。そこが俺のやろうとしている形とは違うなと。やっぱり俺は今のみちのくのレベルを見てもらいたいし、それで見た人たちが、みちのくってこんなもんかとかレベルが低いって思ったとしても、それを見返せるぐらいの力を持っているんで。俺はレスラーとそれを支えているスタッフだけで作り上げているものじゃないと思っていて、そこに来てくれるお客さん、映像で見てくれるファンの人たちと一緒に作り上げてみちのくができていると思っているから、選手に対しあいつはしょっぱいとか、あいつダメだって言うぐらいなら応援してよっていうタイプなんで。ここからまた新しいみちのくが始まると思って見に来てくれたら100楽しめると思うし。俺も心のどこかで、このカードで大丈夫か?って思っている部分はあるんですよ。それはいろんな人たちがプロデュース大会をやって全部大成功させてきて、ここでフジタ“Jr”ハヤトプロデュース大会がこけたら、俺が落ちる。それはそれで不安もあるんだけど、全然余裕って思っている方がまさっているからこれでいくんです。そこの自信が選手に伝わればいいなっていう感じですよね。

そこでつかめた手応えを第2弾、第3弾につなげると。

ハヤト そうッスね。僕と試合をしてきた他団体の選手はまだいるし、見てみたい顔合わせもいっぱいあるし。それをいろいろなところでやれればいいと思う。東京のファンを東北に呼びたいので、これが第一歩ですね。これがコミッショナーとして初めての仕事らしい仕事なんじゃないですかね。タイトルマッチでベルトを渡すのは、別に俺じゃなくてもいいわけで。いや、マジで自覚ないんで。いつもこれ、必要?って思っちゃうんですけど。

コミッショナー就任は会社から言われたんですか。

ハヤト 社長からです。でもいまだに俺、何やってんの?という思いが強いッス。

まあ、コミッショナーというのは常に稼働しているポジションでもないですから。

ハヤト たとえばコミッショナーに対しこいつと対戦したい、タイトルに挑戦したいって言ってくるのが後輩だったらいいんですけど、先輩たちの方が多いじゃないですか。そんな人たちに対して偉そうにできないよって思っちゃう。それでも言われたら全然大丈夫なんですけど。

コミッショナーは偉そうにするのが仕事ですよ。

ハヤト そうなんですけど、そういうのが慣れていない。どっちかというと蹴ったり殴ったりしていたい方なんで、向いてねえよなあって思います。

向いていないことばかり経験している最中。でも、新崎人生から言われたらやるしかないなと。

ハヤト はい、断れなかったんです。まあ、復帰するまでの間でいいからという感じだったし、あとはハヤトが会場に来るのと来ないのとで空気感が全然違うからと。その試合をハヤトが近くで見ているだけでも選手に火がついたりするって言われて、それじゃあという感じで。

年末の宇宙大戦争も、昨年で終戦を宣言しながらまた今年もやると言い出した時に、コミッショナーだったらNOと言えますよ。

ハヤト コミッショナーって、あまり認めないことってないじゃないですか。だからそれも面白いとは思うんですけど、俺自身が宇宙大戦争を楽しみにしちゃっているからそこが弱い。俺を出すならやっていいよとか言えるんで、そこは楽しみと言ったら楽しみですけど。

ご本人は向いてないと思いつつも、コミッショナーはやっていただいた方がいいと思います。その分、試合も見られて流れもつかめるでしょうし、のちのち何かに生かされるでしょうから。

ハヤト うーん、コミッショナーという立場になって、一年の中でこの日は会場にいかなきゃいけないなとか、タイトルマッチをやらせろ→わかったということがあったらもちろんその日も会場にいくようになる。それだけで緊張感があるんです。というのは、今の自分の体でいうと波がすごく激しくて。いかなきゃという気持ちが強すぎるのか、いけたとしても次の日から地獄のような痛みが来るんですよ。おそらく、安心しちゃうからなんでしょうね。病院の先生たちのおかげでできているんですけど、本来この休みに入る時点ではゆっくり焦らず、自分の中で治してからにしようと思っていたのが、ちょっと変わったというのがあって。試合がなくてもコミッショナーとしていってサイン会もあるとなったら、それだけでいろんなところから来てくれるファンがいる。俺がいけなかったら、この人たちの楽しみを奪っちゃうじゃん。だから、どんなにシンドくてもいかなきゃっていう意識で向かいつつ、実際は辛いっていうのもあるんです。だからこれ、難しいですよね。

やりたいのにやらない方がいいという
感情に初めてなったからシンドイい

そうだったんですか…矢巾にいくだけでも容易ではないんですね。

ハヤト 2時間ぐらい新幹線に乗るじゃないですか。その2時間が座っていられないんですよ。ずっとトイレの前で立っている。その方が楽なんで。同じ姿勢でいると痛くなるんで動いていないとキツい。痛くなると30、40分動けなくなる。それが、道を歩いている時に起きたらどうすると考えるとずっと緊張のしっ放しなので、めっちゃ疲れるんですよね。でも、シンドい顔をせっかく参加しているのに見せるわけにいかないじゃないですか。だから普通にしている。そうすると「意外と元気そうだね」って言われるんですけど、元気なフリをしているだけで。ただ、そういうシンドさも会場にいくと、ちゃんとフジタ“Jr”ハヤトになるスイッチが入るんで、その時だけは忘れられる。それが切れるともう死人のようになっているから、そういう意味でも俺じゃなくていいんじゃないかなっていう部分もあるんですよ。

シンドいながらも、やはり人前に出ることで自分の活力にはなっているんですね。

ハヤト もちろん。「無理しないでください。その笑顔も、わかっていますよ」と言ってくれる人もいるんで。サイン会で、癌になったお母さんと来られて「何か言葉をください」って言われたんですけど、そういうファンが本当に増えたんです。それによって、俺が復帰したらもっと勇気が出るだろうなと思って。

2023年12月に癌が再発してリングを離れると報告した時に「戻れないかもという思いが8割」と言っていました。過去と比べて重い症状だったんですね。

ハヤト そうですね。その手術をして、今現在でも左脚の感覚はない。本当に足首とかもゼロです。やっと太腿…股関節から膝上が多少は戻ったかなというぐらいで、戻るペースとしてはすごく遅い方です。よくこれで戻ろうとしているなって感じなんですけど…戻りたいけど戻っちゃいけないんじゃないかって思っているんですよね。あの時は、戻りたいけど戻れないが8割って言いましたけど、今はどちらかというと戻りたいけど戻らない方がいいんじゃね?が8割です。だから自分の中でちょっと変わったんです。

戻らない方がいいというのは?

ハヤト 高梨さんのことがあったじゃないですか(DDT3・20後楽園で高梨将弘が頚髄損傷の重傷を負う)。プロレスラーって、どれほど練習して、鍛えてもああいうことが起きてしまう。それは連戦による疲れや、いろいろなことが重なって起きる場合もある中で、俺の場合はそうじゃなくても動けなくなる可能性がある。僕は、腰の神経を自分の細胞で移植をしていて、いわゆるプレートとかでつなげているのではなく血液を固めてかさぶたを中で作ってつなげているんです。それで普通に蹴りが打てるようになっても、腰をひねった時につないでいたのが切れる可能性はあるし、投げられて受け身をとってバーン!って破裂したら動けないということが起きてしまう体なので…心の奥底ではリング上で死ねたらいいって本気で思って俺はこの業界に入ったんですけど、それは絶対によくないこともわかっている。そういう爆弾があるからこそ、あそこに上がるべきではないって、ここ1年ぐらいずっと思っていて。そんな中、高梨さんのことがあった。映像を見ていないし見たくもないけど、俺は高梨さんとご飯いったこともあるし、卍とも仲がいいんで(高梨と卍丸は闘龍門で同期)よくしてもらっていたんですけど…だから、そんな俺と試合をしなきゃいけない選手のことを考えるといない方がいいと思うから、それが俺のやらなきゃいけないことなのかなという考えになっているんです。

体が回復すればその考えも変わってくるかもしれません。

ハヤト そうですね、もちろんまったく諦めてはいないです。戻れると思っているし、その自信はどこから来るの?って言われるかもしれないけど、俺だったら(神経をつないでいる箇所が)切れると思っていないし。切れそうになったらもう一回内視鏡手術で血を出して固めてくれよっていう感じなんでいいんですけど。全然諦めていないし、なんなら今一番体がデカいんで、今の俺の方が前より強いんじゃね?って思うから戻る気でいますけど。

確かに上半身が分厚くなっていますね。

ハヤト 今、リハビリを始めたところで左脚の感覚を戻すためにめちゃ歩いているし、スクワット系もやって徐々に戻ってきていて、右脚を軸脚にして左だったらサンドバッグを軽く蹴っていいとか、これぐらいの軌道だったら腰が痛くないというのを自分で覚えるのが始まってきています。ただ、自分の体が大丈夫になっても、その爆弾がなくたってそうなっちゃうものなんだなと。それはファンの人たちに見せちゃいけないし、俺たちを送り出してくれている人たち…それこそ親がいるわけじゃないですか。その人たちに心配かけちゃいけないとか、選手同士も動けなくしてやろうと思って試合はしていない中で、そういう事故が起きてしまうことのリスクを一個でも減らすってなったら、やっぱり俺は出ちゃいけないなっていう思いもある。そこが今一番、シンドいッスね。体の痛みとかはもう慣れてきたし、自分に癌がある生き方にも慣れたんで、今はどっちかというとやりたいのにやらない方がいいっていう感情に初めてなったから、そっちの方がシンドいんです。

それは前回復帰した時とは違うメンタルですよね。

ハヤト そうそう。前回はそんなことは考えなくて復帰できたら最高だって思っていたんですけど。でもこれって、別に高梨さんのことがあったからっていうわけでもないんですよ。あれがあって、そういうことを俺たちはやっているんだって再確認しただけで、高梨さんのことがあったから思ったわけではなく、ずっとどこかにあったと思うんです。癌になってからもそれを口にしなかっただけで、本当に考えさせられることでしたね。

我々が知り得ぬ日常の中で、非日常的なプロレス会場へいくことによって精神的支えになるのであれば人前に出るべきとも考えられます。

ハヤト そうですよね。まだ自分の中でどっちに振り切るべきかが定まっていないと思うんです。もちろん戻りたい、復帰して拳王と蹴り合いたいし、ヒロムに勝ちたい。第0試合じゃない形で東京ドームに出たい(2024年の新日本1・4東京ドーム大会第0試合のニュージャパンランブルにサプライズ登場)とか、そういう考えがどんどん浮かんでくるんです。こういう状況(癌との闘い)になっても大丈夫だ、復帰できるから諦めるなよっていうのが前回の復帰で、今回は俺がレスラーとして終えられることが一個の教えになるというか。後輩たちに対しやりたくてもやれなくなる、やっちゃいけないこともある、やめる勇気とか、そういったものを伝えられるんじゃないかと思っていて。格闘技って面白すぎてやればやるほどやめたくなくなる。その中で後輩たち、その後輩の親にも見せたいんですよね。スタイルやキャラクターを変えてやれちゃう業種だと思われたくないんで。だから俺は、前回復帰した時もハヤトのままで復帰したいって言い続けた。今回も復帰できるなら変わらずハヤトのままでいたい。でもそこに体が追いついてくるかどうかはわからない。それならハヤトらしくやめるのか、どっちに振り切るべきかはまだわかっていない…うん、だから今回のプロデュース興行でそこに関しても俺は見たいんです。ここに戻ってこなきゃって思うか、この選手たちで大丈夫って思えるのか。それもあって、ほぼみちのくだけの大会にしようと思ったのかもしれませんね。毎日その思いは変わっていて、朝起きて脚が痺れまくっていて、痛さで起きられない時はもうやめようって思うのに、朝起きてジムにいこう!っていうマインドになっている時は俺、続けられるじゃん!て思ったりもする。毎日コロコロ変わります。

ジムにいっているんですね。

ハヤト それで上半身がデカくなったんですよ。筋トレは上半身がメインで、キックボクシングのジムにいって、ミットを持ってもらって歩幅を直したり。どうなっても右のスタンスにならないよう、オーソドックスにならないように動かしてもらうんですけど、1時間のうちに5回はつまずいて転ぶんです。

戻るべきかどうかの葛藤の中で、ジムにいこうという気にはなっているということですよね。

ハヤト やっぱり復帰したいんでしょうね、今の時点では。好きなんでやっていたい。あとは俺が一番カッコいいと思っているんで。そこに関しては、今のみちのくの若い選手たちが頑張ってやってはいるけど、だから?って感じなんですよね。その感覚が消えないっていうことは…やめないんでしょうね。

そうだと思います。

ハヤト ただ、やめなかったら本当に何かが起きてからじゃ遅いんだよという狭間で…そうッスねえ。そもそも主治医の先生が止めていることなので。先生もプロレス界のいろんな情報は見ているから、絶対させないからなって言われているんです。本当に歩けなくなって、車椅子だと言われながらリハビリを病院で10時間やるというのを続けてここまで来ているわけで、痛み止めも本当に我慢できない痛さじゃなければ打たずにできるだけ薬も減らすこともやってきた結果が、やっと今だから、その体で十分でしょうってお医者さん的にはなるわけです。いや、わかるんですよ。大きい病院で、僕の体を治すために沖縄の病院と連携して27人ぐらいの先生が僕の体のデータを全部とってやってくれているんだぞって言われると、そうだよなあって。

……。

ハヤト だから、復帰するにあたってそこも説得しなきゃいけないし、自分の気持ちを整理しなきゃいけないし、でもプロレスを選んでくれるファンの人たちに楽しんでほしいんで、気持ちを作り上げるのが大変ですよね。それを忘れるのがプロレスを見ている時と、体を鍛える時であって、何も考えなくて楽しいからやれていますけど。

我々としては待ち続けて、本人の決断を受け入れる覚悟を持つようにします。

ハヤト どっちを選んだところで、後悔しそうな気がするんですよね。後悔がないように生きるとしたら、復帰してやりたいやつみんなとやって終わるのがベスト。そこで俺だったらできるって頭ではわかっていながら、心がついてこない。それって、さすがにこの先も痛みに耐えながら生きるのはシンドいっていう辛さと怖さが心の中にあるからなんだなって。ただ、こういうことを言えるようになったのも大人になったと思います。以前は弱い部分を言わないようにしていましたから。この間の拳王の興行も、会場ではそんなことなかったのに、家に帰ったら泣くんですよ。なんであそこに入れないんだっていうのと、なんで俺はこんな痛い思いをしているのにとか。プロレス会場にいくのって、その時は楽しいのに、あとでそういうシンドさに見舞われる。それって100わかってもらえるものではないんで。たとえ同じ病気の人であっても痛みの度合いも全然違うので、わかりようがないものなんです。だからわかってくれよとは思わないですけど。

ただ、それを言葉として提示してもらえたら、ほんのわずかでしかないとはいえ思いを共有できます。

ハヤト 僕はSNSとかで吐き出していないから、よけいにシンドくなるんでしょうけど…SNSって怖いですから。

Instagramはやっていますけど、Xはやっていないですよね。

ハヤト 毎日100件ぐらいメッセージが来ます。その中には「プロデュースとか言っているけど、試合をやらないならさっさと引退したら?」っていうのもあります。「拳王の興行に出てきた時も空気が読めなくて気持ち悪いな」とか「病気って言ってりゃみんなに心配してもらえるよな」とか言われる。まあ、別になーんにも響かないんですけど。

うん、まったく響かない。

ハヤト ホント、なんにも影響を及ぼせていないんですけど、怖っ!て。

そういう行為をするメンタルは確かに怖いです。

ハヤト そういうことをされても、俺は楽しくやっているんで。今度のプロデュース興行も会場に入って、出るまでをいろいろ考えています。開始までのBGMから好きなアーティストの曲をかけるのも許可取ってあるし、パーティー感が出ればいいなって。入り曲を聴いてもらうことで、普段もこういう曲を聴いて治療を頑張っているんだなって思ってもらえたら嬉しい。歌詞も聴いてほしいし、それで好きになったらそのアーティストを応援してほしいですね。