鈴木健.txt/場外乱闘 番外編

スカパー!公認番組ガイド誌『月刊スカパー!』(ぴあ発行)のスポーツ(バトル)では、サムライTVにて解説を務める鈴木健.txt氏が毎月旬なゲスト選手を招き、インタビュー形式で連載中の「鈴木健.txt/場外乱闘」が掲載されています。現在発売中の2016年11月号には、第37回ゲストとしてスターダムの宝城カイリ選手が登場。誌面では惜しくも載せられなかった部分を含めて大公開!!

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宝城カイリ(スターダム)x鈴木健.txt 場外乱闘 番外編

ちっちゃい子から手紙や
似顔絵をもらう嬉しさ…
自分のやっていることの
答えって、そういうもの
なんだと思います

宝城カイリ(スターダム)

©スターダム/FIGHTING TV サムライ/カメラマン:中原義史

小林麻央さん、北斗晶さんを見て
落ち込んでいられないと思った

―9月3日の紫雷イオ戦で脳震とうに見舞われ、以後の「5★STAR GP」リーグ戦を欠場。22日の三邑弘海戦で復帰を果たしました。その休んでいる間の状態からお聞かせください。

宝城 欠場に入ってから1週間ぐらいは頭と首の痛みがあって、家にこもりっきりでした。脳震とうを起こすと自律神経に影響を及ぼして精神的に不安定になるってあとから聞いたんですけど、確かにすごく落ち込んでしまってネガティヴなことばっかり考えていました。その中で、本当にみんながマメにメッセージをくれたんです。スターダムの仲間だけでなく他団体の選手からも男子の選手の方からも。私が早く復帰しなければって思ってしまうことがわかっていたんでしょうね。「ゆっくり休んでも大丈夫だからね」って。

―男子の選手からも来たんですね。

宝城 小島(聡)さんや丸藤(正道)さん、小橋(建太)さんも気にかけてくださって。(高橋)奈七永さんからもあって本当にありがたかったと思うのと同時に、そういう皆さんのためにも頭のことなんだからしっかり完治させて復帰しないとダメだって思いました。復帰した時に一番いけないのは、対戦相手に心配をかけてしまうことなんです。

―相手が攻める時にちゅうちょさせてしまうようであれば、リングに上がってはならないということですよね。

宝城 そうです。だから、そこからはあせらずに休めましたし、休むことでもう一度自分自身を見つめ直せたのでプラスにはできましたね。一つひとつを確認することもちゃんとやって。リングを使っての練習で受け身をとって大丈夫、ミッドブレスでのトレーニングもけっこう自分を追い込むことによって復帰戦当日不安にならないよう持っていけたし。ドクターからも許可をもらって100%OKという自分の中の結論が出たからこそ、復帰戦は不安ゼロになれましたね。

―恐怖心を抱いてしまうと、気持ちではそう思っていても体に自己防衛本能が働いてしまうものですが。

宝城 それが喜びしかなかったんです。怖さは1%もなくて、またリングに上がれる喜びと…入場の時、お客さんが「お帰り!」っていってくれているのを見て、しあわせだなって。

―脳震とうを経験してもしあわせを感じられる自分がいたと。

宝城 休んでいる間、プロレスについて考えて…女子は男子と比べて圧倒的に選手寿命が短いですよね。復帰戦の翌日、28歳になったんですけど本当にこれからは応援してくれているファンの皆さんに感謝の気持ちを持って、一戦一戦真摯に向かって大切にしよう――これが出た答えだったんです。仮にその試合が自分にとって最後になっても、悔いが残らないように一つひとつの試合をやるんだって。

―後半とはいえまだ二十代でありながら残りの時間を意識しているんですか。

宝城 でも、昔の全日本女子プロレスは25歳定年制がありましたよね。今でも28歳という年齢から考えればたくさん時間が残っているというわけではないと思うんです。じっさいは体力的に衰えているどころかむしろ上がっているぐらいなんですけど、今回のこともプロレスって本当に何が起こるかわからない世界ですよね。

―確かに、昨年3月にワールド・オブ・スターダム王座を奪取してからは本当にいい感じで来られました。今回のリーグ戦も順調に勝ち進んでいた矢先に落とし穴が待っていたわけで、好調だっただけにより「なんでこんな時に…」と思いませんでしたか。

宝城 そう思っても、すぐに「こういうのも必要なんだ、プロレスの神様が試練を与えてくれているんだ」って考えるようにしました。リングに立てることのありがたさって好調な時ほど忘れてしまうものじゃないですか。こうなったことで、私はそれを改めて痛感できたんです。今、小林麻央さんのニュースをマメに見るようにしていますし、北斗晶さんもそうですけど、何かをしたくてもできなくて私よりもずっとずっと辛い思いをしている方がたくさんいるんだから、こんなことで落ち込んでいられないって。

―もともと物事をポジティヴに考えられる性格なんですか。

宝城 性格はポジティヴです。でも、辛いことがあったら「なんて自分はダメなんだ!」ってドン底にまで落とし込んで人が見ていないところで大泣きします。暗い曲をあえて流して。それで泣くとスッキリするんです。ため込まずに吐き出すと。

―やはり弱い部分は人前でさらしたくはない?

宝城 試合ではそれも含めて感情をそのままさらけ出すのがプロレスだと思ってやっています。ただ、試合以外では今、選手会長にもなって下の子たちが増えた中で、それは出さないようになりますよね。自分で自分に問いかけて、何らかの方法で結論を導き出してポジティヴになるしかないかも…。

―それってキツくないですか。

宝城 それでもスタッフさんで何人か相談させていただける人はいますし、あとは自己啓発本を読んだりもしています。

―親御さんからは頭のケガということで何か言われなかったんですか。

宝城 なんの連絡も来なかったです、全然。興味ないのかなー。

―理解があるのやらなんなのやら…。

宝城 内心心配はしていると思うんですけど。お姉ちゃんも東京に住んでいるんですけど「まあ、なんとかなるやろ」みたいな感じで。そこは心配しすぎないでいてくれることが逆にありがたいです。

―休んで時間ができるとその分、考えることができて改めてプロレスと向かい合えたと思います。

宝城 小橋さんがおっしゃっていたことで「自分が落ち込んだ時や負けた時、そういう時こそが大事なんだよ」という言葉があったんです。小橋さんはがんを乗り越えたり、大きなケガを何度も乗り越えたりして復帰された方だけに重みが感じられたんですけど、私は今回、3回目の脳震とうを起こしてしまった。次やったらたぶん厳しいとなるでしょうから、それを考えて本当に落ち込んだんです。でも、小橋さんのその言葉を思い出して前向きになれて。それまではもう、あんなにプロレスが好きなのに一瞬ですけど、プロレスが怖いと思う自分がいました。じつはプロレスを始めて怖いと思ったのはこれが初めてで。今までどんなに殴られても顔面を腫らしても、アゴを外されても骨が折れても怖いという感情は湧き出てこなかったんです。

―その怖さというのは…。

宝城 人生はプロレスをやる時間よりも、リングを降りてからの方が断然長いわけで、そこに影響を及ぼす恐怖です。こんな気持ちを持ってしまった自分はリングに戻れるんだろうかってなったんですけど…うーん、なんでしょう。使命…ですかね。

―使命?

宝城 こんな不器用な私なのにずっと応援してくださったり、復帰するまで待っているよって言ってくださったりする皆さんがいる。そういう方々への答えって、プロレスでしか出せないと思うんです。

―それって自分自身の願望ではなく、他者へ対する思いですよね。

宝城 ちっちゃい頃から人を喜ばせたり笑わせたりすることが好きだったんですけど、自分の試合を見ることで少しでも頑張ろうという気になれたとか、元気になったとか言ってもらえるのが喜びなんで…そういうプロレスラーになりたい。

―それを言うなら、もうなっていますよ。

宝城 いえいえ、まだまだだと思います。この思いはデビューの頃から変わっていないんで。小橋さんのようになりたいってずっと思い続けてきて…だから、売店でそういうことを言われたり、お手紙をもらったりすると本当に嬉しいです。最近はちっちゃい女の子や男の子から直筆の手紙や似顔絵をもらったり…「カイリちゃんに褒めてもらいたくてテストで○点取ったよ」って書いてくれて。もう、メッチャ嬉しくて、部屋に飾っています。

―もちろん勝つことやいい試合を見せること、あるいはお客さんに喜んでもらうことはプロレスラーとしてやるべきことですが、そういう反応にこそ自分のやっていることに対する答えを見いだせるのではないかと思います。

宝城 本当にそうだと思います。自分のやっていることの答えって、そういうものですよね。そんな喜びと出逢いたくて、より多くの皆さんに見てほしいと思うんでしょうね。

ももクロのリハで目撃した姿勢
人生で意義あるものを得た喜び

―スターダムは積極的に世間へ向けてアプローチをしていますし、外からの引きもある団体です。

宝城 プロレスって、見に来るまでの距離じゃないですか。一度見たらハマるけれど、そこまでが遠く感じるんだと思います。だから今、新日本プロレスさんはその距離を身近なものにするべくさまざまなことをやられていますよね。スターダムも、そのためのことならなんでもやっていきたいと思っています。フジテレビさんで特番をやっていただいた時も(2月放送)それを見て、初めて会場に来ましたという方がたくさんいましたし、ももクロさん(ももいろクローバーZ)のライヴの前に試合をさせてもらって、それを見てファンになったという方も本当に多くて。

―ももクロのライヴで試合をするのはある意味、アウェイですよね。

宝城 ただ、それによって初めて見る方に何を見せるかというイメージに振り切れるんで。それで出す技や展開を考えてやったんです。技一発ごとに歓声が沸き起こって、感動してもらいたいと思っていたのに自分の方が感動しちゃったんですけど、そういう場をもっともっと持ててアピールできたら、きっとみんなに同じようにいい受け取り方をしてもらえるんだと思います。

―ももクロさんとコラボしたことで、他ジャンルとしてインスパイアされたものはありましたか。

宝城 見習わなきゃなと思ったのは、リハーサルの時ですね。客席にはひとりもお客さんがいないのに、本番と姿勢がまったく変わっていなくてメンバーが誰も手を抜いていないんです。視線も、お客さんと目を合わせているようで…リハーサルがテストではなくて、本番にどう生かすかの場になっているんですね。ももクロさんにかぎらず、この前は競艇選手の方と対談する機会があったり、他のスポーツをやられている方と話したりすると、やっぱりみんなポジティヴなんですよ。皆さん、それぞれ大ケガを経験していてそれでも立ち上がって成功されている。そういうのを聞けるのは、自分の人生において意義あるものが得られているなって思います。

―プロレスと出逢わなければこうはならなかったでしょう。

宝城 普通に就職する気でいましたからね。全然違う人間になっていただろうなあ…今回の欠場にしても、プロレスをやっていなかったらネガティヴなもので終わっていたはずです。でもプロレスラーとしてそれを経験したことで結果的には人として成長できたと思いますし。普通の生活をやっていたら脳震とう3回なんて経験しないでしょうけどその分、強くなれたんですから。

―よりプロレスを広める話に戻しますと、自分たちがやっていることに見合う効果で広がっていかないジレンマは感じていますか。

宝城 それはないですね。少しずつではありますけど、自分たちがその効果を実感できていますから。これがまったく形として見えていなかったらなんで…ってなるでしょうけど、地道であっても先ほど話したように何かをきっかけに見に来てくださる方々がいるなら、それを続けていけばいいっていう答えはここにあるので。ウチは昨年の件(世Ⅳ虎vs安川惡斗戦の波紋)があってガクッとなったのを乗り越えてきた分、そこは大きいと思います。

―そういった長期的なテーマを踏まえつつ、リング上でも並行して実績を積み上げていくのがプロレスラーです。現在、宝城さんはワンダー・オブ・スターダムのベルトを保持していて、10・30後楽園ホールでチェルシー・グリーン選手のチャレンジを受けます。過去2度の防衛戦も外国人選手が相手でした。

宝城 これに関しては今まで2人の間で何があったというのがない防衛戦で、いきなりぶっこまれた感があるタイトルマッチですよね。正直言ってしまうと、カードそのものの注目度は低いんだと思います。でも、何もないところから試合の中で何を生み出せるのかっていうテーマは持てる。今回の防衛戦はまさにそれです。

―それまでの過程があったらテーマがわかりやすいですけど、イチから築きあげる分、未知の可能性を秘めているのはこういうカードでしょうね。

宝城 難しいですよね。でも、それもチャンピオンとしてやるべきことなんで。最近、外国人の選手とやるのが楽しくて。どう引き出して、どう盛り上げて、どう勝ってやろうって思いを巡らせるのが面白いんです。

―もともと海外志向があるからなんですかね。

宝城 そうかもしれません。海外で5回ぐらい試合をさせていただいているんですけど、現地での反応が本当に楽しいんです。あれを体感するともっともっとやってみたいってなります。言葉は違っても気持ちであったり思いが伝わるのって、不思議だと思うしプロレスのすごいところだなって。ダイビング・エルボードロップ(宝城選手の場合、独特のフォームで決める)が好きだって言ってくださる方のツィッターとかが本当にビックリするぐらいいろんな国から寄せられるんです。もともとあった技がそこまで愛してもらえるのは…嬉しい、本当に嬉しいです。

―短期遠征ではなく長期的スパンでの活動は、将来的な考えとして持っていますか。これはWWEも含めてですが。

宝城 メキシコにはもう一度いってみたいな。『世界ふしぎ発見!』のロケで1回いったきりで、あの時はまだまだ未熟だったんで。アレナ・メヒコでやってみたいです。ルチャリブレのスタイルは苦手なんです…けど。WWEは、私のような小柄な選手でダイビング・エルボーを使ったら異色だと思うんで、その中でどれだけできるか試してみたい気はありますが…うーん、今はスターダムでやりたいことがあるんで。いつか、ご縁があったら…という感じですかね。

―そのスターダム内に目を向けるとタッグリーグ戦「GODDESSES OF STARDOM」に美闘陽子選手とのコンビで出場します。6月に、4年ぶりの復帰戦の相手を務めました。

宝城 復帰戦で当たるまでは、どれぐらいの気持ちでプロレスをやるつもりなのかっていうのがわからなかったんですけど、試合をすると言葉で「どうして戻ってきたんですか?」とか「どれぐらいの気持ちでやるつもりなんですか?」って聞く以上に伝わるものなんだなって思いましたね。

―会話を交わす以上に?

宝城 そうでした。それを言葉にしたら「美闘さんのプロレスをやりたいという覚悟が伝わりました」ってなりますけど、それだとどれほどのものなのかまでは伝わっていないですよね? でも試合で肌を合わせるとその量っていうんですか、高さなのか大きさなのかはわからないですけど、たぶんそういったものを超えた感覚でダイレクトにわかるんです。具体的に言っちゃった方が伝わらないかもしれないですけど、蹴りの強さひとつをとっても闘った私には伝わってきました。だから、その気持ちだったら一緒に頑張りたいって素直に思えました。それを経てのタッグなんで、楽しみですよね。

―我々はプロレスラーではないですから言葉でしか伝えることができないんですが、言葉だとさらけ出した結果、グチャグチャになって逆に伝わらなくなる。でもプロレスの試合って不思議なもので、さらけ出すと伝わる。

宝城 全部が全部、うまくいくとは限らないのもプロレスの難しさであり面白さでもありますよね。必ずしも2人の思いをさらけ出すことで理解し合えるかというとそうではなく、たとえばそれが怒りや憎しみだったりすると、よりこじれてしまう闘いもある。今回の美闘さんとはお互いの気持ちが噛み合った形ですよね。

―もともとは美闘選手の方が先輩ですよね。戻ってきてからのお互いの距離感はどんな感じなんでしょう。たとえば呼び方とか。

宝城 先輩でもあるし、トシが近いことで気楽に関わり合えるというか。前よりもフレンドリーな感じになれたと思います。呼び方は私の方がもちろん“さん”づけですよ。以前は美闘さんが1期生で私が3期生だったので、私の方に明確な体育会系の距離感があった。今は…不思議な関係。ファイトスタイルが似ていない分、お互いを補い合えるのでいいチームになると思います。美闘さんは(愛川)ゆず季さんの引退で(ゴッデス・オブ・スターダム王座を)返上して、私は奈七永さんとの七海里で返上しているんで、タッグのベルトに対するいろんな思いがあります。優勝してベルトを獲り返しにいきたいです。

―では最後に、スターダムの魅力を教えてください。

宝城 スターダムには幅広い年齢の選手がいて、幅広いキャラクターがあって全員が別々の個性を持っています。なので、初めて見に来きてくださった方も必ず自分がいいなと思える選手がいると思います。ファイトスタイルも選手それぞれで違うんで、好きなプロレスがその中にあるはずです。第1試合からメインまで飽きることがないです。ちっちゃい子たち、女子高生、男子のマニアックな方…見に来られる方もいろんなタイプがいるのは、それが理由なんだと思います。それらがひとつの興行の中に詰まっているんですから。その中で私たちは心と体をぶつけ合っています。どのジャンルも自分の生きざまを見せていると思いますけど、プロレスは直接ぶつけ合っている分、勝った時の喜びの爆発力が本当にすごい。それを見ることによって、悩み事があったりイライラしたりしているのも吹っ飛んでポジティヴになれます。

―ポジティヴになるためにもスターダムを見てほしいと。

宝城 はい! ポジティヴが力になることを私自身が今回実感できたので。これからはより自信を持ってスターダムを見てもらえるんだと思います。