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何年前だったか、ジャガー横田選手から久々に携帯メールを頂いたことがありました。何かな?と思って開いてみると、「明日からの北海道、航空券お願いね」という内容。全く心当たりがなかったのですが、他ならぬジャガーさんからのお願いです。ここは黙ってチケットを予約しないといけないだろうという気もしましたが、それにしてもあまりにわからないので、数秒悩んだ後にジャガーさんに返信。「ご無沙汰しておりますミタです。航空券の件、正直申し上げましてよくわからないのですがどうしたらよろしいでしょうか」と恐る恐るメールを出してみたらば、「あ、ごめんなさい。英津子と間違えてました」とあっさりレスが。そうです、ジャガーさんは三田英津子選手に出すメールを間違えて三田佐代子宛に送ってしまったと、そういうことだったんですね。実はそういうことは何度かあって、とある団体からいきなり留守電にオファーがあったこともありました。三田英津子選手と私。大きい三田選手と小さい三田、実は1969年生まれと年齢も同じ。一時期は私が三田選手のご実家の近くに住んでいたこともあり、スポーツクラブでばったりご一緒したこともあったのです。
そんな三田英津子選手が11月1日、22年間の女子プロレスラー生活に別れを告げました。
やっぱり三田英津子選手といえば猛武闘賊、ラスカチョーラスオリエンタレスです。1990年代後半から女子マット界を股にかけて暴れ回ったラスカチョ。美しくて、悪くて、怖くて、強かったラスカチョ。女性から見ても男性からみても魅力的な、かっこいいタッグチームでした。
全女倒産直前にフリー宣言をし、あらゆる女子団体を荒らし回った猛武闘賊ですが、彼女たちが何故あれだけ重宝されたのかを今改めて思い返してみると、まず何よりそのビジュアルが際立っていたことがあると思うのです。誤解を恐れずに言うならば、それまでヒールレスラーというのは女子でも短髪で、いかにも悪そうなペイントをして、男言葉を使う選手が多かった。それを変えたのはブル中野選手であり、北斗晶選手だったと思うのですが、その女性らしさを更に昇華させたのが猛武闘賊だったんじゃないかと。ヒールだって美しくって何が悪いんだと、それを身をもって表現した功績は偉大だと思います。
極彩色でデザインも凝っていて、しかもボリュームたっぷりのガウン。髪飾りや帽子もコーディネイトして、いつもラスカチョがガウンを脱いだ後はセコンドの若いレスラーがそのガウンに埋もれそうになりながら片付けているのが印象的でした。元々背も高く、スタイルもいい三田選手と下田選手は何を着ても似合うのですが、お揃いのコスチュームのセンスもカッコ良かった。メイクも隈取りとか大げさな目張りを入れたりしないで、あくまでも美しく。そして黄色とピンクに塗られた椅子が、彼女たちの武器。華やかなガウンとカラフルな椅子で武装して、胸を張って堂々と花道を歩く猛武闘賊の入場シーンは今でもはっきりと心に残っています。
そういえばあの頃、ちょうどスターウォーズのエピソード1が公開になってえらく人を集めていました。私も乗り遅れまいと映画館に見に行った時、ナタリー・ポートマン演じるアミダラ女王のポスターが貼ってあり、そのエキゾチックな衣装を見ながら若い男の子たちが「ラスカチョみたいだな」と言い合っていたのを覚えています。ラスカチョは当時、それほどの知名度があったんですね。
それから猛武闘賊が凄かったのは、どこの団体に行っても後輩たちと徹底的に闘ったことだと思うのです。全女の中西百重・高橋奈苗組、ZAP-I・ZAP-T組。アルシオンの浜田文子・AKINO組。みんな最初は全く歯が立たなくて、ラスカチョにこてんぱんにやられて大流血。ブーイングの中で自分たちも血を流しながら毅然と勝ち名乗りをあげる三田選手と下田選手の姿は、若い選手たちにとってどれほどの脅威だったろうと思います。そんな悔し涙を流した若い選手達が最終的に勝利を奪う頃、猛武闘賊はまた新たな戦場へと向かうのです。そうやって、ラスカチョによって鍛えられ、ラスカチョを乗り越えることで女子レスラーとして一人前になっていった選手がどれほど数多くいたことだろう。
そして今日、三田英津子選手はシングルで真琴選手と、そしてラスカチョとして井上京子・高橋奈苗組と2試合を闘い抜きました。この日を迎える前に、師匠の北斗晶さんから「引退試合もお祭りじゃないから。最後まで闘いだからね」とのアドバイスがあったのですが、それを体現するような厳しく激しい試合でした。紆余曲折ありながら、大好きな三田英津子選手を「成仏させるために」、引退試合のシングルマッチの座を自らつかみ取った真琴選手。三田選手のリングインからもう泣いているみたいな表情だった真琴選手ですが、ゴングが鳴ったらそこはもう、ひとりの立派な女子プロレスラー。全然無気力じゃない、力のこもった「無気力キック」や、ブレイジングチョップを打ち込んでいきます。三田選手の痛めている膝も容赦なく攻めるあたり、一番大好きな相手を痛めつけることで感謝の気持ちを伝えなきゃいけないなんてプロレスラーって因果な仕事だよなあと思ったり。最後は元祖デスバレーボムで3カウントを奪われた真琴選手でしたが、三田選手も試合後話していたとおり、立派に引退試合の相手を務めたことでまたひとつ、プロレスラーとしての階段を上がったのではないかと。
そして一旦リングを降りて、改めてガウンを着てラスカチョとして再度入場。「やっぱり、猛武闘賊としての入場を見たいっていうファンの人も多かったから、2試合続くけれど一度下がって美馬と一緒に入場しようと思ったんです」と三田選手が語っていましたが、あのかつて見たラスカチョのように、極彩色のガウンに椅子ひとつ持って最後のリングに乗り込んでくるおふたりの横顔は、ことのほか美しかったです。
まあしかし対戦相手も京子・奈苗組という女子プロレス界を代表するパワーファイター同士ですので、案の定大乱戦に。黄色く塗られた椅子の底が抜けるほど殴り、超満員のお客さんを蹴散らかしながら場外戦。でも最後は、京子選手のナイアガラドライバーで3カウントを聞き、三田英津子選手の最後の試合が終わりました。気がつけば、真琴選手との時は水色、ラスカチョの時には黄色の縁取りがついた三田選手のコスチュームは、純白に変わっていました。
セレモニーではたくさんの後輩たちにきりっとした表情で感謝の気持ちを伝えていた三田選手ですが、最後の最後にサプライズゲストとして北斗晶さんが登場すると、こらえていたものがあふれるように、そして一気に若手時代に戻るかのように大泣き。その後のマイクでは、NEOの選手、スタッフの名前をひとりずつ呼び、「お世話になりました、ありがとう」と言っていらしたのがとても印象的でした。NEOという団体にとっても、後楽園を北側まで全部開放して超満員で三田選手を送り出してあげられたというのはとても素晴らしいことだと思うのです。そして三田選手にとっても、全女でデビューし、あちらこちらの団体を渡り歩いたあとで、NEOという仲団体で仲間たちに囲まれて引退できたことが、レスラーとしていかに幸せなことであったろうかと。
バックステージではすっきりとした表情で、100%未練がないことや、今後はまず普通の生活を送るために膝の手術をすることなどを語って下さいました。「もうずうっと全力で走ったことがないんですよ。だから膝を治して、思いっきり走ってみたいです」と言う言葉の裏には、いったいどれほどの負担がこれまであったんだろうと切なくなりました。
…とここまでは私も今日はぼろぼろもらい泣きをするくらい、感動的な引退試合でありセレモニーだったのですが、最後にとんでもないオチが。囲みの記者の中に私の顔を見つけて下さった三田選手と一問一答みたいな形式になってしまったんですが、それが思いもよらない展開に。大ミタ、が三田英津子選手、小ミタ、が不肖ミタサヨコです。
小ミタ:膝が治って思いっきり走れるようになったら、またリングに上がりたくなったりしないですか?
大ミタ:それはないです。これから花嫁修業しようと思って。ミタさんも同い年だし一緒に花嫁修業しましょうよ。
なんかイヤーな予感がしました。もしやこれはさくらえみさんの時と同じ展開なのでは…
小ミタ:いや、あの、私もう結婚しているんですよ…。
大ミタ:えー!ほんとですかー! いったいいつ結婚したんですかー?!
小ミタ:いやもうけっこう前で、8年くらい前のことになるんですけど…
大ミタ:全然知らなかった…。でも私もあきらめないで頑張ります! 終わりです!
なんという展開…。なんだか私は、知らず知らずのうちに頑張っている女子レスラーの皆さんをどんどん窮地に追い込んでいるんでしょうか。何だったらこれから私も花嫁修業しようかと思いました。ていうか花嫁修業は全然しませんでしたので、今からでも遅くないんじゃないかという気がしてまいりました。
はからずも最後はこんな感じで大変申し訳なく、気まずい展開になってしまったのですが、もうこれで三田英津子さんと間違えてメールが来ることもないのかな、と思うと寂しい気持ちがします。でも三田英津子選手が生み出したデスバレーボムは、男子女子、日本海外問わず使われるプロレス必殺技として、これからも語り継がれていくのです。そして三田英津子選手の気持ちを汲んだ真琴選手始め、レスラーたちの闘いの日々は続きます。どうか、全力で走れるようになった三田英津子さんの新しい日々が、これまで同様輝かしいものでありますように。そして私と違いちゃんと花嫁修業をした暁には、今日のラストのリングコスチュームと同じ、純白のウェディングドレスが待っていますように!
三田英津子選手の引退試合が行われたNEO11.1後楽園大会は、サムライTVで11月17日(火)23時からオンエア。見ないとデスバレー!
Profile
- 生年月日:1969年8月5日生まれ
- 血液型:A型
- 出身地:神奈川県小田原市
慶応大学卒業後、1992(平成4)年テレビ静岡にアナウンサーとして入社。 報道・スポーツ・バラエティなどあらゆる分野で活躍し、テレビ静岡の看板アナウンサーとなる。 より一層の飛躍を目指し、1996(平成8)年3月、同局を退社しフリーとなり古舘プロジェクトに所属する。 その後はプロレス専門チャンネル初代キャスターに抜擢。 現在、年間100試合以上の取材観戦でレスラー顔負けのアグレッシブさを見せている。 その他レポーターやMC、執筆活動など幅広く活躍中。 サヨコアリーナPLUSは、業界でもファンが急増中。